岩崎柊の回想
「水やりの時間良い?」
「はい。」
俺は見続けてきた背中の後を追って中庭へと出る。
美羽は何時ものように上呂に水を溜め、俺は備え付けられたベンチに腰を下ろした。
「体はもう大丈夫?」
「はい。ご心配お掛けしました。」
「美羽・・・俺、あの頃お前の事好きだったよ。」
「・・・。」
そうあの頃。
俺達が未だ同じ園服、同じ帽子を被っていた幼稚園生の頃。
俺は確かに美羽が好きだった。
「だけど・・・蓮もお前が好きで・・・。でも俺がやった事は間違ってた。好きだったなら
『俺も好きだから』って、蓮にはっきりと言うべきだったと思ってる。」
「柊君、解ってます。あの頃の私達は本当に幼い子供だったんです。・・・正直に言います。
傷付きました。だから自分を守ってきました。柊君を赦すタイミングもずっと逃してきた様に
思えます。」
美羽が振り返り、俺を射抜くように見つめた。
これまで感じた様な俺を拒否する影が無い事に気付く。
彼女の瞳は真摯に俺に向かってきた。
「傷つくよりも、人を傷つけた事の方が痛いです。・・・だから私は柊君とは仲が良かった頃の
幼馴染に戻れると思います。」
俺に傷つけられた事よりも、蓮を傷つけた事の方が痛みだと美羽は言った。
「因果は廻る」と言うが、もしかしたら、蓮も俺を傷付けた事を悔やんでいるのかもしれない。
「蓮の施設に二人で行かない?」
「はい。二人揃って行きましょう。」
「・・・ねぇロイの前でも敬語なの?」
俺が唐突に聞くと彼女は、慌てふためき花壇に水溜りを作った。
「何故急に咲の話ですか?」
「・・・ロイが美羽を見る目が優しくて、俺は嬉しい。」
心の底からそう思った。
俺はずっと、贖罪から美羽を見てきた。
幼稚園生の頃、胸に抱いていた甘い「スキ」とは違う想いで。
通学路を歩く美羽と蓮の後ろ姿。
手に取る様に解る距離感。
次に歩く時は、きっと俺は自然に美羽の左側で歩みを進めて行くのだと思う。