85)過去を振り返る時
美羽っちと二人、学校へ行くと視線は痛く耳に掠める話し声は辛辣だった。
「よく学校来れたよね」
「やっぱりあの人頭イタかったんだな」
「蓮クンが精神病院行ったって・・・」
「美羽に薬盛られたとか何とか」
「柊クンもあの女に相当振り回されてる」
「あんな顔してこえー女ー!どの面下げて学校来んだよっ」
あたしは美羽っちの左手に手を添えて指先をきゅっと握った。
それに彼女は優しく”ダイジョウブ”と返してくる。
「おはよ甘糟シス!」
「真希ちゃん!おはよ!!」
あたしは何時もと変わらない真希ちゃんをハグする。
「おはようございます、真希ちゃん。色々ご迷惑お掛けしてます。」
「良いんだって。放っておけば良いよ、他は。何も知らない癖に勝手に噂するんだからさ。」
病院に勤める誰かから、事情聴取をした警察の誰かから、家の近所の誰かから、少しずつ噂は広まっていた。
けれど、その噂の本質は美羽っち、蓮兄、柊ちゃんにしか解らない事。
「おはよ。」
階段の踊り場で、柊ちゃんがあたし達3人を見下げていた。
「おはよ、柊。朝練終わったの?」
「あぁ。」
「おはようございます。」
「柊ちゃん、おはよ。」
「美羽に話があるんだけど、水やりの時間良い?」
「はい。」
美羽っちは鞄を真希ちゃんに託し、その足で柊ちゃんと一緒に中庭へと出て行った。
二人がどんな話をするのか勿論気になったけれど、あたしは足を進めて上だけを見た。
これは、二人の問題だから。二人のけじめだから。
「紗羽ちゃん、あたしはさ、あの子ら3人の中で色々あるんだろうなぁって中学の時から思ってた。
美羽が醸し出す雰囲気も、蓮の強すぎる想いも、柊の抑え込んでる気持ちも・・・。小さい時のままの
気持ちを自己防衛しすぎちゃったんだろうね。」
美羽っちは結界を作って傷つけられない様にして、蓮兄は柊ちゃんから美羽っちを取り上げたくて
柊ちゃんは美羽っちを傷つけた事実が贖罪になって・・・それ以上はなくて・・・。