77)狂気の始動
「あんたがやらなくても蓮兄が美羽っちを何時か壊す。」
「蓮?何で。あいつ美羽に相当入れ込んでるって聞いてるけど。」
「・・・あんたが蓮兄を壊したんだよ。蓮兄は、美羽っちの特別にずっとなりたかった。だけど
あんたが現れて美羽っちの心があんたに行ってて・・・。ってあんたに話しても仕方ないよね。」
僅かながらの望みを託すようにあたしは口を噤む。
もしここでロイが話の続きに興味が無いのなら、完全にゲームオーバーだ。
でもロイが釣られたんだとしたら、ロイの心のスイッチも入ってるって事。
「俺が蓮を壊したって?は?」
あたしは小さく安堵の息を漏らす。
「・・・蓮兄は美羽っちを自分だけのモノにしようとしてる。もう狂ってるとしか言いようが無い。」
「ちょっと待て、どういう意味?完結に言えよ。」
「蓮兄は美羽っちを完全に自分だけの所有物にするかもしれないって言ってるの!永遠に!!」
「・・・はぁ?・・・イカレてる・・・。」
ロイの綺麗な顔が苦痛に歪む。
「・・・美羽っちがね、あんたの事で泣いてたよ。」
「は?」
「紗羽!!」
ジャージ姿の柊ちゃんが息急き切らしてあたしの肩を強力に掴む。
「美羽は?!」
「え?・・・ロイ、美羽っちは?」
「部活って言ってたよ。」
「まじかよっ。」
柊ちゃんは何の説明も無くあたし達の前から走り出そうとする。それを止めたのはロイの長いリーチだった。
「何があった。」
「美羽と蓮がいねー。」
蓮兄が動き出した?
「俺は取り敢えず自宅見てくる。何か形跡あるかもしれないし!」
「あたしも直ぐ追い掛ける。柊ちゃん先行って。」
思わずロイの顔を見る。
「・・・近くにバイク止めてる、俺の後ろに乗れ。」
柊ちゃんは家に向かって走り出し、あたしはロイの後を追ってバイクに跨った。
信号待ちでロイが少しあたしに振り返り、声を張る。
「心当たりは?」
「無いっ!」
「空っぽの頭で考えろ、バーカっ!」
あたしはフルフェイスのヘルメットをばこっと叩いた。