72)アウト
”簡単”と思っていたせいか、口がぽかんと開いてたらしく、あたしの口内にロイが侵入してきた。
「☆§ΞД‰~√≠」
ブラを持ったままの手でロイを押し返す。
離れていくロイの顔が、悔しいけど色っぽくて胸がドキドキした。
廊下でパタパタとスリッパの遠ざかる音が聞こえる。
はたとドアを見ると半開きで、あたしは聞きなれたスリッパの音を思い返す。
見られた?
「何でキスしたの?って聞かないの?紗羽。」
ロイが制服のパンツのポケットに親指だけを引っ掛けて肩をいからす。
「・・・で・・・キスしたの・・・。」
「美羽が見てたから。ふ、これで二つ目かな。」
そう言って、ロイはあたしの部屋から出て行った。
あたしは手の甲で唇を何度か拭いた。
ローチェストの上の、樋口の笑顔から顔を背ける。
ごめん・・・ごめん樋口。
ロイには会いたくなくてあたしはずっと部屋に閉じ籠っていた。
部屋がどんどん暗くなっていく事で、夜になったのだと気付く。
のろのろと立ち上がり、パジャマを手にして階下に下りた。
丁度お風呂から上がって上気した美羽っちに出くわす。
彼女は顔を伏せあたしを避けようとした。
「美羽っち!あれは違うんだよ?!」
彼女があたしを真っ直ぐな目で見てこう言った。
「違いません。」
そして、行ってしまった。
確かに・・・キスしたのは現実だよ。だけど、それはあたしが望んだ事じゃない。
あたしは樋口が好きなんだよ?
あたしだって今回は被害者だよ?
美羽っちは解ってくれないの?
自分が傷ついたら結界を作るだけなの?
他を赦さないの?
あたし・・・美羽っちを守ろうだなんてエゴだなぁ・・・。
ドロップアウトしたいなぁ・・・。
「樋口ぃ・・・。」
あたしは廊下でひっそりと涙を流していた。
明日はお休みします。
明後日は、更新出来るか微妙でし。
ここまでお読み頂き有難うございます。
椎葉。