71)錯覚 と思いたい
「・・・(絶句)。」
目の前の状況を疑った。
ここは甘糟家だよね。そしてここは家族団欒のリビングだよね?
どうしてでしょう。
ロイがそのリビングでママと美羽っちと談笑している様に見えます。
「おかえり、紗羽。」
「おかえりなさい紗羽ちゃん。」
「紗羽ちゃーん、おかえりぃ。樋口君以来の男の子が来てママ、ルンルンだわ♪」
(ルンルンって・・・ママ)
あたしはロイの腕を引っ張り、リビングの外へと連れ出す。
美羽っちに聞かれたくなくて声を顰める。
「どういうつもり?」
「ママがイギリスから茶葉を送ってきたんでね、美羽にもって思ってね。」
「・・・あたしにそんな笑顔、繕わなくて良いんだけど。」
言った瞬間、ロイの顔が変貌する、悪魔みたいな顔に。
「ねぇ紗羽の部屋、上?」
そう言い勝手に階段を上り始めた。
「ちょっ!!」
あたしは慌てて追いかける。
ロイが手を掛けたドアノブは美羽っちの部屋だった。
少しだけ、その場に立ち尽くし部屋をぐるりと見渡す。
「想像通り。こっちがお前?」
今度は隣のあたしの部屋のドアに手を移動する。
「うぎゃっ!止めてっ!」
ロイがくつくつと笑う。
「うぎゃって・・・くっ。」
あたしの静止も空しく、ロイはドアを開け放ち足を進める。
ローチェストの上の、樋口との写真を見て鼻で笑い、アクセを入れた小さなカップに指を突っ込んで弄ぶ。
あたしはバッグを勉強机の脇にぽとりと置いた。
「・・・何でキスしたの?」
「ん?したかったから?」
「信じさせて、壊したいから?」
「・・・ねぇどれが勝負下着?」
「え?!」
見るとロイは勝手にあたしのチェストの引き出しを物色していた。
その右手で摘まんでいるのはあたしのブラじゃないですかっ!!!!
「ちょっちょっとー!!!」
あたしはそれを取り返しにかかる。
無理かなと思ったけど、案外簡単に取り戻せた。
少し拍子抜け。
でも、簡単過ぎた。
あたしの腰はロイの左手で抱き寄せられ、見上げていた顔にロイのそれが近づいて
あたしは簡単にロイに唇を押し当てられた。