68)頑なに拒否る
美羽っちが両手で自分の両頬を挟み込み、目をぎゅっと瞑っている。
「嫌じゃなかったんです。」
「・・・キスが?」
こくんと頷く美羽っち。
「咲に見つめられて吸い込まれそうになって、気付いたら一瞬唇が触れていて・・・。」
ガッデム!!
めくるめくロイワールドぉぉぉぉ・・・。あうぅ。
「今まで男の人に対してドキドキした事無かったんですけど・・・キスされてあたしの頭は
どうにかなってしまったんでしょうか。」
美羽っちの思考は5歳で凍結されています。
その事をあたしは知ってます。奥底に人を好きになる事を置いてきたでしょ?
「イケメンにキスされたら誰だってドキドキすると思うよ?だって前に蓮兄にキスされそうに
なった時もドキドキしたでしょ?違う?」
「蓮君・・・?」
巨乳とテニスの勝負をした事、忘れてないよね?(みんなもっ・・・ね?)
「ありましたか?そんな事?」
さっきまでロイとのキスに頬を染めていた美羽っちはもう其処には居なかった。
表情は硬く、何時もの、抑揚のない美羽っちの口調。
相当、重症なんだと解らされる現実・・・。
「覚えてないならドキドキしてないって事かな。そっか、それならそれで良いんだけど。
ま男は柊ちゃん達だけじゃないし、美羽っちも恋を知っても良い年頃ってとこなのかもね。」
”柊ちゃん”の名前にアクセントを付ける。
美羽っちの指先がぴくりと動くのをあたしは見逃さなかった。
「お弁当、食べよっか、美羽っち。」
「はい。」
今頃、ロイは美羽っちの親切が詰まったお弁当を口にしているだろうか。
それとも、それを棄てただろうか。
蓋を開け逆さにするだけで良い。
それさえやってのける男に違いない。