62)何時も通りの朝に
「おはようございます。」
月曜の朝は癪に障る位のお天気で、10月の始まりだって言うのに気温が高くて異常だと思った。
あたし達3人にも微妙な雰囲気が漂っていて、あたしは息が詰まりそうだった。
「今月の鉢植えパンジーなんだね?」
「はい、よく育ってくれてます。」
何時もの会話。何時もの動作。
蓮兄が美羽っちと並んで歩く姿を何時も後ろから見守ってた柊ちゃん。
それが柊ちゃんにとっては意味のあるものだと、今は解る。
一番傍には居られないけど、きっとこの先も柊ちゃんは美羽っちを想い続けていくんだと思う。
・・・柊ちゃん、その「想い」は恋ですか、それとも罪の意識から生まれたものですか。
苦しいよ。
苦しくてしょーがないよ、柊ちゃん。
5歳なんてそんな歳に、蓮兄って選択肢しか与えられてなかった。
それなのに、美羽を助けられなかった、美羽を傷付けたって、全部背負うとして・・・
「ごめ・・・駄目・・・。」
あたしはそれを止める事が出来なくて、足を止めて前を歩く美羽っち達に背を向けた。
右手の甲で目元を隠す。一生懸命口を閉じてみる。
アスファルトの上で石が擦れる音がした。
「紗羽・・・。俺の為に泣かないで。・・・お前の大事な美羽を壊したのは、俺だよ。憎んで
くれたって良いよ。」
あたしは振り返った。
「だからそれは柊ちゃんだけのせいじゃないじゃんっ!!」
思わず大きな声が出ちゃって、美羽っちが驚いて振り向いた。
「紗羽ちゃん?」
「・・・ごめ・・・美羽っち・・・先行って。あたし柊ちゃんと話がある。」
「美羽?行こう?」
後ろ髪引かれる思いの美羽っちは蓮兄に促されて、又前を向いて歩き出した。
「俺のせいなんだよ。これは俺と美羽しか知らない事。」