6)美羽っちと樋口
二人の出会いは、去年の高校の文化祭の時。
中3だった樋口は、受験勉強の息抜きと称して、志望校の一つだった双葉高校の文化祭に
友達とやって来た。
美羽っちのクラスは”メイド喫茶”的な事をやっていて、美羽っちもコスプレの上、
お給仕をし、樋口のテーブルへと紅茶とクッキーを運んだ。
”メイド?!”と思わず見とれていると、友達にからかわれたので、照れ隠しに
友達に手を出そうとした時に、テーブルクロスが手に引っ掛かって、美羽っちが運んだ
紅茶やクッキーが床へと落ちた。
美羽っちのメイド衣装にも紅茶がかかってしまった。
周りは一斉に注目し、樋口の友達も”お前どうすんだよっ?!”みたいな顔を投げかけた。
そこで美羽っちは、怒る訳でも、慌てる訳でもなく”お怪我は無いですか?”と微笑んだそうだ。
直ぐに代わりの紅茶とクッキーを出し、美羽っちは着替えの為、教室を後にして
謝るにも謝れず仕舞いでその日は終わってしまった。
樋口は、双葉を受験し、合格発表の日に美羽っちと劇的に再会した。
入学案内を受け取る為に、列に並んでいると花壇に水やりをする美羽っちが居た。
樋口は迷うことなく声を掛けた。
「あ、あの!」
春の風になびいた美羽っちの髪が綺麗で樋口は、完全に心が奪われた。
(って、確かに本人が言ったんだってば!)
樋口を見た美羽っちは
「?・・・合格発表の掲示板なら、あちらですよ。」
とご親切に解りきった事を享受したらしい。
(美羽っちっぽい・・・)
「あの俺、文化祭の時に・・・紅茶を零したんです・・・。あの時、謝れずにすみませんでした!」
頭を下げた樋口。それに対し美羽っちは
「・・・あぁ。大丈夫ですよ?あれは被服部の方が作って下さった衣装で、
制服ではありませんでしたから。」
と、微妙な返事をしたとか。