54)頭を使って・・・
美羽っちの部屋のドアをノックする。
「・・・はい。」
美羽っちの声はしたけど、何時もの様に声と同時に目の前の扉は開かない。
「・・・紗羽。謝りたいんだけど・・・入って良い?」
(押して駄目なら引いてみろ! でしょ?)
その言葉を優しい美羽っちが無下にする訳なく、扉を開けた。
あたしは部屋の中央部に置かれたローテーブルの足元へと座る。
美羽っちもそこに座った。
「・・・ロイの事、あたし良く知りもしないのに、近づいちゃ駄目って言ってごめんね?」
覗き込んだ美羽っちの瞳があたしへと、ゆっくりと向けられる。
「ただ心配だったの。今まで美羽っちが誰かを怖いなんて言った事無かったし、ましてや
蓮兄や柊ちゃん以外の男の子と・・・一緒に居るのって何だか・・・。」
(あたしは、戦法を変える事にした)
「・・・紗羽ちゃん。私こそごめんなさい。」
(良かった!乗って来た!!神様アリガト♪)
「咲のお父様、調香師で凄く忙しい人で今回も日本のショップと提携して香水作るから
こっちに来たらしいんだけどね・・・酷く寂しいんですって。」
「さ寂しい・・・。」
ですか・・・?美羽っち。
「そうなんですって。それにオッドアイになってしまった事で小さい頃から虐められたり
好奇な目で見られたりして辛い思いをしてきたって・・・。それを聞いて私は”怖い”だなんて
言ったりして失礼だったなって・・・。話してみたらとても優しい方ですし。」
(それ・・・本当かもしんないけど・・・今現在寂しいって思ってるかどうか大変怪しい・・・)
「そ、そっかぁ。じゃぁ美羽っちはロイと仲の良い”友達”になれそうなんだね?」
「はい!」
あらあら可愛らしい笑顔で。
「・・・美羽っち?余計な事かもしんないけど・・・。蓮兄の事も考えてあげてね?」
「・・・。」
一瞬にして美羽っちの顔が曇った。
あれ?
美羽っちは悲しそうに少し笑って
「紗羽ちゃんも、ですか。」
と言った。