46)奇行
「紗羽、あの人だよ、ロイクン。」
桃ちゃんが、学食でテラスに座るロイクンを指差した。
(遠目で見ても、イケメンさが漂ってる男って・・・。)
ふわっとしたシルバーグレーの髪は、彼特有のオッドアイを隠すかのようだった。
2年の女子がロイクンの周りを陣取っている。
パンを片手に適度な会話をしているが、時折顔を上げて何かを探している様な素振り。
「紗羽ちゃん、此処良いですか?」
「美羽っち!うん良いよ。今日お弁当じゃなかったんだね。」
「はい・・・寝坊しちゃいまして。」
「あ、そうだったの?!」
寝坊したと言っても、あたしよりは断然早かったと思うけど。
「桃ちゃんは何ランチですか?これ美味しそうですね。」
美羽っちが桃ちゃんのトレーの上に目をやる。
「あ、はい、これ限定10食の特Aですっ。」
桃ちゃんが少し緊張しているのが見て取れた。
美羽っちの笑顔は何時もの通りに見えた。
そう彼が直ぐそこに立つまでは。
「美羽。」
美羽っちの顔に陰りが見えた。あたしが声の主を見上げると、噂のロイクンだった。
長く垂れた前髪の隙間から、オッドアイが見える。
右目はブラウンで、左目がアイスシルバーとも言うべき透き通る程のグレー・・・。
「わぁ・・・綺麗・・・。」
思わずあたしは声に出して言う。すると彼はにっこりと微笑み、
「よく言われるよ。」
と言う。その間にロイクンの白い指が躊躇いもなく美羽っちの髪の毛に触れた。
そしてそこに顔を近づける。
美羽っちは狼狽の色を隠せず、身体を硬直させたままだ。
「太陽の匂い。」
ロイクンはそれで止めるのでなく、髪から肩へ、肩から手首まで指を這わせた。
見ているこっちがその行為に息を飲む。
美羽っちの指先に到達すると、今度はそこに鼻を近づけ、薄く唇を宛がう。
「土の匂いもする。花の所に行った?」
美羽っちの顔は今までに見た事のない程、赤く染まっていた。