43)二人の時間
せっかく両想いになれたのに、樋口と学校で会えなくて悲しい事だけどこの手があたしと
共にあるんだなって思ったら、頑張れる気がした。
今日はガソリンスタンドでのバイトが早番で、双葉迄迎えに来てくれた。
学校行って、バイトして、家の事やって・・・それであたしと恋をして、樋口にとっては
ハード以外の何物でもないけど・・・。
月見荘。ご飯を食べる部屋の横に普段、樋口達が寝てる畳の部屋がある。
そこでうっすらと額に汗をかきながら樋口は眠っていた。
あたしはその横に寝そべって、樋口の左手を弄ぶように眺めていた。
爪の間は黒くて、微かに油の臭いが染み付いた身体。
樋口のそれなら悪くないと思える自分が居る。
恋のチカラって凄いなって思う。
蓮兄があれだけ美羽っちに執着出来るのが今なら少しだけ理解出来るかも。
・・・蓮兄を解る様になると解らないのは、柊ちゃんだ。
どうして。
あんな風にしていられるのかな。
自分と同じ様な顔をした蓮兄が、あれ程までに美羽っちを想っていて、自分は見てるだけ。
しかも、美羽っちに伝える気はなさそうだなんて。
蓮兄も蓮兄かぁ。
きっと蓮兄も本当は柊ちゃんの美羽っちに対する気持ちには気付いてる。
なのに、自分の気持ちを隠すでもなく、真っ向勝負の姿を見せつけてる・・・。
「今、俺の事考えてないだろ。」
「え!」
あたしは手をついて自分の身体を起こした。
樋口は腹筋を使って一気に立ちあがる。
6畳間の机の上に置いてある生温い麦茶を一気に喉に流し込む樋口。
「美羽さんの事でも考えてた?岩崎さんとの三角関係。」
「え?!何で三角関係って知ってるの?」
樋口はTシャツの裾を持って、ひらひらと動かし、汗ばんだ身体に風を送り込んだ。
「知ってるつーか、目?美羽さん、見る目が二人とも一緒なんだよね。」
(本当に何で気付かなかったかな、あたし)