37)教えてくれませんか
一口カレーを口にして思った事。
(・・・負けたかも)
ママのカレーはチキンカレー、樋口のカレーは申し訳程度の豚肉恐らく小間切れカレー。
でも・・・何だか美味しい。凄くあたしの味覚に合ってる。
悔しくて”美味しい”と言いたくない。
翠ちゃんも匠クンも黙々と食べ、最後に水を流し込むと先程と同じ様に教科書を見始めた。
樋口に目をやるとこれも又無口に。
(空気悪っ!)
「樋口・・・美味しいよカレー。」
悔しいから樋口の顔は見ずに言った。
スプーンと皿がぶつかる音が一瞬途絶え、樋口が鼻で笑うのが聞こえた。
「当たり前だろ。」
「今度うち来る?ママのカレーも食べにおいでよ?」
純粋な気持ちで誘ったのだけれど、樋口は少し考え込んでいた。
「あのさ・・・美羽さんの事でお前がそんなに頑張ってくれなくて良いからさ。」
「・・・え。あ、うん別にそういう意味で今は誘った訳じゃないけど。」
あたしは黙ってしまう。
目の前のカレールーをスプーンで掬っては流してを繰り返した。
「・・・そか。ごめん。」
「ごめん、あたし帰るよ。残しちゃって悪いけど・・・ゴメン。」
ラグから立ちあがりバックを持つと、二人で立ったキッチンをやり過ごし、小さな玄関でサンダルを突っ掛ける。
閉まりかけたドアの隙間から樋口の声が聞こえた。
あたしの名を呼んだけど、あたしはそれを無視した。
何だろう・・・。この蒸発し切れないモクモクと湧き上がる熱い感情は何だろう。
樋口の家から何処をどうやって歩いたのか。
感情の理解に苦しみながら歩き続け、直ぐそこにあったかい光を灯した家を見つける。
そしてそこに、蓮兄が居た。
「紗羽は俺が言った事、理解出来てないみたいだね。」
美羽っちには絶対、聞かせないような冷たい口調だった。
椎葉です。
すみません、何時もの更新時間に更新できませんでした^^;