35)ショーウィンドーの向こうに
「美味しかったですね、紗羽ちゃん。」
「うん良かったね、美羽っち。良い経験が出来て。」
「はい。」
「樋口じゃぁ俺バイト夕方からあるし帰るわ。じゃーな。」
「え、あ。うん。悪かったな急に。」
ツッチーが左手を上げ人ごみの中に消えて行った。
取り残された3人・・・と思いきや
「でわ私も、此処で。今日は有難うございました。」
と美羽っちが何時に無い素早さで、あたし達の所から駅のある方向へ足早に行ってしまった。
樋口もあたしもどうしたものかとお互いが次の言葉を探しあぐねて、あらん方向を見続ける。
「お前、これから何かあんの?」
「え?な無いけど?樋口はバイト?」
「・・・今日は夜間のバイトだから・・・。」
「ふーん、そ・・・。」
あたしは見逃さなかった。
ショーウィンドーに飾られる可愛いペンダント!!
「ねぇ見て見てーコレ可愛くない?」
シルバーでトップに、スカルとクラウン。クラウンの中にはピンクのキュービックが輝いていた。
「・・・何だこの骸骨。」
あたしは樋口の腕を叩く。
「骸骨じゃない、スカルだよ、スカルっ。」
「・・・同じだろ。シャレコウベとも言うだろ。」
「うぎゃーっ言わないしっ!!」
樋口が笑うから、あたしも結局笑った。
(樋口の笑った顔、今日初めて見た気がするな)
「げっ何でこんなんで1万近くすんだよ。」
「クローバーのだもん。」
「・・・ふーん、甘糟はこういうのが好きなんだ。」
「紗羽ちゃんは、アクセはつけないよ?」
ショーウィンドーの中に映り込んだ樋口の顔を見た。
「今晩うちカレー作るんだけど、食べにくる?」
(スカル→カレー→自宅訪問、ですか?!)
樋口の顔を見上げてあたしはコクンと頷いた。
それに対して、樋口の笑顔が優しく見えたのは気のせいじゃない気がする。