34)対抗心
「本当に此処で良かったんですか?」
樋口が恐縮そうに美羽っちに確認する。
「はい!」
美羽っちは嬉しそうにメニューを眺める此処は、牛丼屋さんだった。
今まで来た事が無かったから来たかったらしい。
「あたし並のつゆだくぅ♪」
「紗羽ちゃん、つゆ・?」
「つゆだく。つゆいっぱいって事だよ、美羽っちもそうする?」
「何だか判りませんが・・・はい、でわ紗羽ちゃんと同じでお願いします。」
「俺、大盛り。」
(金無いって言ったの誰だっけ??)
「じゃぁ俺、大盛りのつゆだくだくで。」
「うえっ男の癖にだくだくって。だくだくって。」
「何で2回も言うんだよ!俺は汁ご飯が好物なんです!」
「だくで充分じゃん。何それスプーンで頂いちゃうんですかっ!」
「スプーンくださいっ。」
「・・・ぷっ。」
軽く握った右手を口元に当てて美羽っちが小さく笑っていた。
「お二人、とても仲が良いんですね。」
あたしは美羽っちの一言で身体が熱くなるのを感じた。
樋口を見ると、樋口も何だかバツの悪そうな顔と共に顔を赤らめている。
テーブルに配膳されたつゆだくの牛丼を見て、美羽っちは目を輝かせ、紅ショウガ食べ放題にも
目を丸くし、肉の薄さにも目を見開いていた。
「ふふふ、本当に樋口君の牛丼、おつゆいっぱいですね。」
「・・・俺、味覚が子供なんですよね。」
「紗羽ちゃんもそうですよね?一番好きなのはカレーですし。」
「美羽っちっ!言わなくて良いよーそんな事を。」
あたしは慌てる。
「初さんのカレーは日本一ですものね。」
「あ、初さんってママの事だから。」
「カレーならうちのが一番だって弟は言うけどね。」
「何?やる気?!ママのカレーは千円出しても惜しくないし。」
「俺んとこは1200円出して良い、なツッチー?」
「・・・忘れたよ、お前んちのカレーなんて。」
ツッチーは場を盛り上げる事もなく、読めない感丸出しで牛丼を黙々と食べ続けた。