21)初めてのお弁当
4時限目の現国が終わると、あたしは机に突っ伏している樋口に声を掛けた。
「ねぇ授業終わったよ?!」
「ん・・あぁ・・・。」
大欠伸をして身体を起こす樋口。
(バイトで疲れてるのかな)
「ねぇ一緒にお昼食べない?お弁当作ったんだけど。」
「え?弁当?」
「あーうーん、ほら昨日のいちご牛乳のお礼だよ。」
樋口は少し怪訝な顔をしたものの、食べ物に釣られ、屋上であたしと隣り合って座っていた。
「何この茶色い物体。」
「・・・卵焼きだけど。」
あたしが用意した箸でその物体をつまみ上げる。
少し怖そうな面持ちで口へと運ばれる。
(え食べ物ですが?)
「・・・あ、んまい。俺卵焼きは甘いのが好きなんだよね。」
「え。まぢ?!んまい?」
あたしの驚きに樋口は眉を顰めて言う。
「味見とかしてねーのかよ。」
「・・・。」
(笑っとこうか、ここはね。紗羽ちゃんスマイル☆)
それから樋口は黙ってもごもごっとお弁当をたいらげた。
お弁当の定番と言われる卵焼き、唐揚に加え、アスパラのベーコン巻に
ほうれん草の胡麻和えは、胡麻一つ残されることなく樋口のお腹の中に消えていった。
それを見て、あたしは素直に嬉しいと思った。
自分が作った(正確には卵焼きとベーコン巻だけ・・・)お弁当を
ピッカピカに綺麗に食べてくれたことが嬉しかった。
「ごっつぉーさん。」
樋口は体の前に両手を合わせ、そう言った。
「お粗末様でした。」
「同情なら要らねーよ。でも弁当ありがと、美味かったよ。」
返されたお弁当箱を巾着の中にしまう途中のあたしの手が止まる。
樋口は立ち上がり、あたしをだだっ広い屋上に一人にした。
”同情”って・・・。
あたしが同情したって思ってるの?