2)翻弄される人々
「遅いよ。」
家の小さな門をくぐると、隣の家の幼馴染が不機嫌な風に声を掛けてきた。
(居たよ、翻弄される男①)
「おはよ、柊ちゃん!おはよ、蓮兄!」
「おはよう、紗羽。」
蓮兄の眩しいほどの笑顔があたしを飛び越え、美羽っちに向けられる。
「美羽、今月は昼顔にしたんだね。持とうか?」
「蓮君。おはようございます。大丈夫です。蓮君の制服が汚れるといけませんから
自分で持って行きます。お心遣い有難うございます。」
と律儀にかくっと頭を下げる美羽っち。
「何時も思うけど、何で紙袋に入れて鉢植え持って行かないんだよ、美羽。」
柊ちゃんが眉間に皺を寄せながら質問を投げる。
「こうして持っていると、歩いてる方々の目にお花が映るでしょう?少しでも
幸せな気持ちになって頂ければと思っていて・・・。」
頬を少しだけ染めて美羽っちは答える。
(・・・朝は忙しくて、他人の事は目に入らないと思うけど・・・)
「じゃあせめて鞄を持とう、美羽、貸して。」
「恐れ入ります。」
蓮兄は美羽っちの鞄を受け取り、肩に掛けた。
二人が並んで歩くので、あたしは自ずと柊ちゃんと肩を並べる事になる。
「柊ちゃん、来たよ。」
「何が。」
「美羽っちにモテ期が来たんだよ!」
「蓮は、前からじゃん。」
「違うの!うちのクラスの樋口大志ってのが居るんだけど、どうやら、美羽っちの事。」
あたしはむふふと唇を結んだまま笑った。
「美羽と1年に何の接点があるのよ。」
「図書委員って。」
「へぇ・・・って、蓮もじゃん。」
「あたしにね、樋口が”美羽さんと岩崎さん付き合ってるんですか?”って聞いて来たのよ。」
柊ちゃんが少し考えた後
「美羽じゃなくて、蓮の方なんじゃねの?」
と片方の口の端を少し上げて笑った。