染矢くんは巫女さんから尋問を受けました
俺は気付いてしまった。
「友瀬さんも俺も、まだお守り受け取ってなくない……?」
少なくともいま、俺の手元にお守りはない。
確か社務所の受付で種類を伝えて、その時に友瀬さんとハモって……お金もまだ巫女さんに渡していないから、注文が成立してすらいないのか?
「俺のせいもあるからなぁ。友瀬さんの分も受け取って、あとで渡すか?」
どうしよう、連絡して確認しようかな。
いや、ついさっき俺に告白されたばかりだし、しばらくは返事が返ってこないような気もする。
とりあえずふたり分を確保しておいて、本人がよければ渡す方向でいいか。
そこまで高いものでもないし。
しかし、うん、なんだ。
嘘のそれとはいえ、俺、女の子に愛の告白をしてしまったな。
冷静になったら結構恥ずかしくなってきたぞ?
さっきは必死でそれどころじゃなかったけど、周りにちょっとギャラリーいたしな。
なんなら、まだ何人かに見られてるしな。
やめろ、見せもんじゃねぇぞ!
あ、はい、そうですね俺が悪いですね。
見た目チンピラが、天下の往来で騒ぎを起こしてすみませんでした。
告白そのものは三度ほど経験があるけど、女子に壁ドンしたのは初めてだった。
……友瀬さん、なんかちょっといい匂いがしたな。
「いやいやいやいや!」
ストップストップ、これは一時の気の迷いだ!
……多分。
そもそも、友瀬さんには好きな人がいるんだぞ!?
「叶わない恋はもうしないって決めたじゃないか……」
俺が今までに恋をして、告白に踏み切った女子は三人。
そして過去、俺が俊一への告白を仲介した女子もまた、三人。
あぁそうだよ、みんなことごとく俊一に惚れてたんだよ!
クソがよぉ、こればっかりは一生恨むからなあの野郎!
あいつなんも悪くないけどさ!
その女子が振られた後で狙わないのかって?
……俺はね、俊一の野郎と縁切る気はないの。
仮にその女子と付き合えたとして、俺と俊一がつるんでる限り、確実に長続きしないだろう?
そんな人とわざわざくっつくような趣味は持ち合わせていないんでね、俺は。
きっとお互い、幸せになれない。
でも、彼女たちの告白を手助けしないという選択肢もまた、俺は持ち合わせていなかった。
たぶんあれが、よく言われる『惚れた弱みで』というやつだ。
ま、とにかく要するに。
俺が王子様とお姫様をくっつけたいのは、あいつのためだけじゃないんだ。
俺だって!マトモに!恋愛がしたいんだよ!
あいつに彼女ができて、それが周知の事実にさえなってくれればいいんだ。
そうすれば少なくとも、告白を断られる理由に……実際どうなのかは別として、口実に使われることはまずないだろう。
だから、俺が誰かにアプローチをかけるのは、俊一の野郎に彼女ができてからって決まってんだよ。
ちくしょうめ!わかったか、バーカ!
……つーかそもそも、なんで中学の頃に誰とも付き合わなかったんだよあいつ!
そうすりゃ俺、三人のうち誰かひとりくらいとならうまくいってたかもしれないだろうが!
今は姫乃さんに惚れて『付き合いたい』って言ってるからいいものの!
「あー、思い出したらなんか腹立ってきたな」
さっさと済ませて家に帰……いや待てよ。
今のこの、ささくれ立った精神状態で授かったお守りは、果たして期待しているほどのご利益を見込めるんだろうか?
「……いちおう、参拝しなおすか」
家からこの神社までは片道一時間半、日を改めて出直すのはちょっと躊躇うくらいの距離がある。
自分が信心深い人間だとは思わないが、神様に対して無礼になりそうなことは避けたいなと、何となくそんな風に思う。
鳥居をくぐる前に一礼、参道の真ん中を歩かない、手水屋で手と口を清める、二礼二拍手一礼。
毎度のごとく、律儀にすべて守る必要はないはずなんだけど、不思議とやってしまうんだよなぁ。
「さっきは騒がしくしてしまって、すみませんでした。いまから頂くふたつのお守りの持ち主が、好きな人と付き合えますように」
口の中でボソボソ呟くくらいの声量で謝罪と願い事を伝えて、いざ再びの社務所へ。
ちょうど混雑する時間を過ぎたのか、受付の前にはほとんど人影がない。
「あら。あなた、先ほどの」
「その節はどうも、失礼しました……」
「お連れの女性はどちらに?」
「なんか、バスに飛び乗って帰っちゃいました」
「あらあら、それはまぁ……」
「それで、彼女の分のお守りも受け取りたいんですけど」
「かしこまりました。どうぞ、恋愛成就守りおふたつです……あの、つかぬことをお伺いしますが、彼女とはどういうご関係ですか?」
俺はここでも質問攻めを食らうのか!?
……どうする。
一応、さっきの設定は守ったほうがいいな。
友瀬さんがこの人と絶対に会わない、っていう保証もないし。
「彼女は高校のクラスメイトなんですけど……俺は彼女のことが好きで、でも彼女は他の誰かのことが好きみたいで――」
「あらあらあら、まぁまぁまぁまぁ!」
「な、なんですか」
「ごめんなさい、つい興奮してしまいました」
「興奮って……いや鼻血出してる!?」
「ちょっと待っていてくださいね」
「えぇ……?」
鼻血を出した巫女さんは、そそくさと奥に引っ込んでしまった。
なんというか、大丈夫かあの人?
巫女さんのイメージがどうとか以前に、こう、人間として。
今のうちにここから逃げてもいいんだろうけど、毒を食らわばなんとやらだ。
そもそも、まだお守りのお金を払ってないし。
巫女さんはすぐに戻ってきた。
その手には、彼女の私物であろう長財布が握られている。
「おまたせしました、こちらをどうぞ」
巫女さんはそう言って、財布から取り出した万札を俺に握らせようとしてきた。
「いやいやいやいや、なんでそうなる!?」
びっくりしすぎて敬語とれたわ!
ヤバい、ほんとにさっき逃げたほうがよかったかもしれない。
「わたし、趣味で小説を書いてるんですけど」
「はぁ」
「現役高校生からの供給が、あまりにもその、強烈すぎたもので」
「……それで?」
「私の熱情を刺激していただいたことへの、ほんの心ばかりのお礼にと」
巫女さんはそう言って、赤らめた頬に手を当てながら体をクネクネとよじり始めた。
「だからぁ!」
「うふふ、ちょうど原稿が詰まってたんですぅ!でも今なら、何ページだって書き倒せる気がします!」
「いやだ怖ぁ……」
「人の好意は素直に受け取るべきですよ?」
「その好意の向けられ方が怖いって言ってるんですけど!?」
そのあとしばらく押し問答して、俺は結局千円、お守りふたつ分の金額だけいただくことになった。
なってしまった。
あくまで、俺が神社に千円を収め、巫女さんは俺に千円を渡すという形で。
さすがに直でお守りを立て替えてもらうのは、こう、なんか、ダメだろうから。
あくまでちゃんと、自分で負担しました。
「お兄さん、結構めんどくさい方なんですね」
「いやあなたが言いますかそれ」
「うふふ、またどこかでお会いしましょうね、染矢くん」
「いや、なんで名前を知って――」
「……何言ってるんですか。最初は私の目の前で、あのクラスメイトさんと話してたじゃないですか」
「それもそう、ですね?いやそれでも名前を呼ばれるのはちょっと……」
「まぁごめんなさい、配慮が足りませんでした」
「とにかく、俺はこれで失礼します。ご迷惑をおかけしました」
「はい、ようこそお参りくださいました」
一応、あくまで一応、曲がりなりにも迷惑はかけてしまったので、改めて謝罪してからその場を後にした。
足早に、それはもう足早に、先ほど一芝居を打ったバス停まで戻った。
駅前に向かうバスがすぐにやってきたのは不幸中の幸いというか、なんというか。
これまでの人生で、今日ほど“本数の多いバス路線”に感謝した日はないだろう。
しかし、どんだけ時間かかってんだ今日。
さっきの巫女さんだけでも長いこと捕まってたし。
気付いたらもう太陽が傾きかけてるぞ?
「お守りも手に入れたし、あとは友瀬さんに連絡しなきゃ……そういえば、友瀬さんは誰のことが好きなんだろ?」
まさか俊一とか言わないよな?
……実際、絶対にあり得ない話ではない。
なんせあいつ、姫乃さんが学園のお姫様なのと同じくらい、学園の王子様だからな。
まだ入学してひと月も経ってないのに、ホントどうなってんだ。
ていうかもしそうなら俺、あいつが原因で振られるの四度目だぞ!?
いやまぁ、今回の告白はブラフというか、本気のそれではないんだけども。
そうではあるんだけど、さぁ。
三度の告白がトラウマみたいになってる俺には、ちょっと堪えるぞこれ。
「なんか、凄く複雑な気持ち……」
◇
「はぁ~……」
染矢くんから逃げ出し、転がり込むようにバスに乗ったわたしは、手近な席に思い切り体を預けて大きく息を吐いた。
「なんで、どうしてこんなことに」
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