染矢くんは神社へお参りに行きました
高校に入学して最初のゴールデンウィーク。
それは、新しい環境へ慣れ始めた矢先に訪れる、非常に危険な大型連休である。
この期間中、いかに新しい友人たちと交流を保ち、どれだけ仲良くなれるかが今後の高校生活を左右するといっても過言ではない。
そんな大事な連休の初日、俺はとある神社に来ていた。
……ひとりで。
いや、待ってほしい。
確かに俺はコミュ障の人見知り、なのに比較的よく喋るとかいうややこしいタイプの人間だ。
でも流石に、普通の対人関係で神様に縋るほど重症ではない。
それに、今のところクラスメイトとの関係は良好だ……と思うし、連休中に集まって遊ぶ約束もしてるから。
一人で出かけるの、今日だけだから。
この滝のように流れる汗は、高校生活への不安からくるものじゃない。
連日のように真夏日を記録してる地球のせいだ。
まったく、勘弁してほしいもんだぜ……。
閑話休題。
じゃあ俺は何のためにこんな遠く、電車とバスで片道一時間半もかかるような場所まで願掛けしに来たのか。
それはここが、全国でも有数の『恋愛成就』のご利益がある神社だからだ。
いや、待ってほしい。
頼むから待ってほしい。
別に俺が高校デビューで浮ついているとか、彼女が欲しすぎて必死とか、何ならナンパ目的で来ているだとか、そういうアレではない。
確かに今の俺は『あなたチンピラかなにか?』とか言われそうな見た目をしてるけど。
派手な柄のアロハシャツ、ロン毛を束ねたマンバンヘア、おまけにサングラスまで装備して、どう見てもチャラいナンパ男にしか見えないかもしれないけども。
……あ、はい、そうですごめんなさい。
ファッションに関しては完全に、一から十まで高校デビューで浮ついたからです。
じゃなくて、違うんだ。
今日の俺は純粋に、大切な友人のためを思って、はるばる願掛けに来てるんだ。
「あの“王子様”が、ついに初恋か……感慨深いもんだな」
我が愛すべき幼馴染、幼稚園からの長い付き合いである王子俊一。
こいつは容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能と、まさに王子様という表現がぴったり当てはまるような奴なんだが、なんと高校に入るまで一度も恋というものをしたことがなかったのだ。
少なくとも、俺の知る範囲ではの話だが。
まぁ俊一のことは何でも知っているといっても過言ではないので、初恋でまず間違いないだろう。
本人曰く『正確には初恋かちょっと怪しいかも?』とのことだが、んなこまけぇこたぁいいんだよ馬鹿と尻を蹴り飛ばしてやった。
……一応、『間違ってもその想い人にだけは初恋じゃないかもとか言うなよ?』としっかり釘を刺しておいた。
俺は、嫌というほど知っている。
俊一なら、たとえ相手が推定初恋の人だとしても、デリカシーに欠けた発言をしかねん。
あいつは変なところで抜けている奴なんだ。
王子様の本性は、みんなが思っているほど万能でも、王子様でもないのである。
まあむしろ、そのほうが友達甲斐もあるってもんよ。
あいつのためなら、神だろうが仏だろうが頼りますとも。
「しかし、見事に女子ばっかだな」
境内を見回すと、参拝客のほとんどは若い女性で占められていた。
薄々気付いてはいたが、改めて実感してしまうと居心地の悪さがすごい。
「……早いとこ済ませて退散するか」
肩身の狭さを感じながら参拝を終えた俺は、お守りを授かるべく社務所へと向かった。
受付の前には女性陣が大勢固まっていて、列があるのかすらわからないような混雑ぶりだ。
たぶん、受付のすぐ脇に設置されたおみくじのせいだな。
この中に分け入っていくのは少々、いや、かなり気が引けるが……ええい、ままよ。
「「すみません、恋愛成就守りをひとつください」」
俺と、隣に立っていたもうひとりが声を発したのは同時だった。
面白いぐらい綺麗にハモっていたので、つい声の主を見てしまった。
「友瀬さん?」
「染矢くん?」
視線の先で俺の名を呼んだのは、眼鏡をかけた真面目そうな女の子。
同じB組に所属するクラスメイト、友瀬なつきさんだった。
「やっぱり友瀬さんだ!こんなところで会うなんて、奇遇だね」
「……えぇ、そうですね」
彼女は一呼吸遅れて、よそよそしい態度で同意した。
友瀬さん、俺にはいつもこんな感じなんだよなぁ。
なんというか、あからさまに苦手意識を持たれている気がする。
こちらから話しかけたら流石に答えてくれるし、彼女が敬語なのは学校の誰に対しても同じみたいだけど。
……いや、そういえばひとりだけ居たな。
友瀬さんが敬語を使わない相手。
「ねぇ。友瀬さんってたしか、姫乃さんと仲良かったよね?」
姫乃由佳さん。
俊一と同じA組の生徒で、入学後ひと月と経たないうちに学年、いや学内で一番の美少女と噂になるような人である。
あいつと駄弁るためにA組の教室へ行くと、姫乃さんと友瀬さんが楽しそうに話しているのをよく見かけるのだ。
たしかその時、友瀬さんは敬語を使っていなかったような気がする。
だが、姫乃さんの名前を出したのはまずかったかもしれない。
さっきまでは『ちょっとした苦手意識』ぐらいだった友瀬さんの反応が、大きく悪い方向に変化してしまったのだ。
「あなたまさか、由佳ちゃんのことを狙ってるんじゃ――」
友瀬さんは眉間にしわを寄せながら、明確な敵意をもって俺を睨みつけてくる。
駄目だこれ、確実に地雷原に突っ込んだ!
「いやいやいやいや、違う、違います!確かに姫乃さんは凄く、凄く可愛いと思うけど!」
「当然でしょう。あの子は世界一可愛いんですから」
「友瀬さんが威張ることかなぁ……」
「なんですか、悪いですか?」
「いいえ全く!」
親しい友達が褒められてると、まるで自分のことみたいに嬉しくなっちゃうよね!
わかるよ、わかるけどなんか怖いよ友瀬さん!
思ってたのと全然違う感じの人なんだね友瀬さん!
……友瀬さんのことはいったん置いといて。
実際、姫乃さんはとても可愛らしい人なのだ。
整った顔立ち、さらさらの髪、淑やかな立ち姿、妖精のような笑い声。
姫乃さんのことを『可愛くない』と断言できる人はまず居ないと思う。
あ、ちなみに今の“淑やかな~”とか、“妖精のような~”とかは俺の感想ではない。
全部とある男の発言でしてね、王子俊一って奴なんですけども。
もうお分かりだろう。
何を隠そう、学園いちの美少女こと姫乃由佳さんこそ、我が幼馴染の想い人なのだ。
いくら他人にモテまくる王子様でも、いざ自分が恋する側に回ると、どうすればいいのか全くわからないらしい。
ましてや相手はあの姫乃さん。
だから俺は俊一のため、恋愛成就のご利益を求めて遠路はるばるやってきたってわけだ。
あいつに頼まれたわけじゃなく、俺が勝手に来てるだけなんだけども。
ちなみに俊一は弊学ご自慢のサッカー部所属、しかもいきなりレギュラーに大抜擢されているので、連休は対外試合と練習でほとんど埋まっている。
僅かにあった休日も同期の懇親会などに露と消えたので、ゴールデンウィークのあいつは一日も体が空いていない。
もしかしたら、そのうち自分でお参りに来たかったかもしれないけど、暇がないんじゃ仕方がない。
「なんとなく怪しい人じゃないかと疑ってましたけど、まさか私の後を尾けて……?」
「いやなんでそうなるの!?ていうか怪しい人って、さすがにちょっと傷つくよ!?」
友瀬さんと姫乃さんが親しい間柄なのを思い出して、つい欲が出てしまった。
ここで何か情報を聞き出せれば、少しでも俊一のサポートになるんじゃないかって……。
あーもう、この場は挨拶だけで撤退するべきだった!
どうしよう、このままだとサポートどころか邪魔になってるまであるぞ!?
「……あのー、お取り込み中すみません」
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