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アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ  作者: るさんちまん
王都来訪編Ⅲ 古都の章
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4 解放と代償

 メルダース商会のヴァンデリオン支部があったのは、城へと通じる目抜き通りの中程。古都らしい年季の入った石造りの建物の中だった。

 訪れたのは俺とコンラードの二人だけ。セレスにはミアと共にとりあえず待機して貰っている。

 セレスはそのことに不満げな様子だったが、万一裏に控えている貴族と対立することになった場合、その場に彼女がいれば実家のクーベルタン伯爵家にも影響が及ぶことを考えての措置だ。

 折角、伸び伸びと冒険者を続けられるようになったのに、またしてもシスコンの兄から妙な横槍が入るような事態は極力避けたい。

 いざとなれば彼女は後先考えずに飛び込んで来るだろうけど。

「お待たせしました。先程は挨拶もせずに帰ってしまい失礼。改めまして私がメルダース商会ヴァンデリオン支部長のダカンと申します」

 街中でコンラードに絡んでいたチンピラ共を率いていた身なりの良い男、彼がやはりこの支部の責任者で間違いないようだ。

「コンラードさんのことは御存知ですよね? 私は黒曜級の冒険者でユウキと言います」

 ひと先ず俺もそう名乗りを上げる。

「コンラード殿のお知り合いのようですな。……ところで、セレスティーナ様はお見えにならないのですか?」

「ええ。彼女は私の冒険者仲間というだけで、コンラードさんと直接関わり合いがあるわけではありませんから。私の顔見知りということで、コンラードさんを彼女に紹介はしましたが」

 俺はセレスがこの件と無関係なことを強調する。それでいていつでも関われる立場を匂わすのも忘れない。

 ダカンは少し考えてから、言った。

「そうですか。それで急にやって来られてお話とは何ですかな? 例の服の入手先を教えて頂けると言うなら、こちらとしては大変有り難い申し出なのですが」

 端から期待していないことは表情を見れば丸わかりだ。なので、俺も余計な前置きは口にせず必要なことだけを告げる。

「単刀直入に言います。あなたが差し押さえさせているコンラードさんの馬車を即刻返還して頂きたい」

 ここに来るまでどう切り出そうかさんざん悩んだ末に、結局はストレートに要求することを選んだ。サラリーマン時代から細かい駆け引きは苦手なのだ。

 すると、ダカンは慇懃さが却って人を小馬鹿にするような態度で答えた。

「あの時も申し上げたはずです。私共には関係ないと。馬車を取り戻したければ、来るべき場所が間違っておりますな。衛兵詰め所に行かれるべきでしょう」

 何度も行っています、とその言葉に今度はコンラードが訴えた。ですが、その度に門前払いで相手にされないのだ、と。

「整備不良なら直すと言っているに、検分中だと言われて返して貰えない。それで一体、どうやって街を出れば良いのですか?」

「ですから、そのことを私共に言われても困るのですよ。衛士隊にご不満がお有りなら、審議会に訴えたら良い」

「その審議会のメンバーの一人があなたではないですか」

 まあ、衛士隊に裏から手を回せるくらいなので、審議会も信用できないというコンラードの主張はわからないでもない。

 下手に訴えると、逆にこちらが罪人扱いされかねないのはクーベルタン市で経験済みだ。

 どの途、俺の目的はコンラードをこの街から解放することなので、先々のことは後回しにするとして、早速それを実行に移す。

「建前はもういいですよ。あなたが裏で糸を引いていることは承知している。あ、別に否定はしなくて結構です。証拠はありませんし、それを問題にするつもりもない。ただ、こちらの立場をはっきりさせただけですから」

「……では、そうしておきましょう」

 ダカンは慎重な口ぶりでそう言うに留めた。

 彼に言ったことは本心だ。魔眼を使えば幾らでも自白は取れるだろうが、それで馬車が取り戻せても根本的な解決にはならない。

 だから俺は改めて言った。

「その上で再度申し上げる。コンラードさんを留めておいても無駄だから、さっさと馬車を返せ」

 口調を変えたのは意識的にだ。

 この部屋にいるのは俺とコンラードとダカンの三人のみだが、すぐ隣の部屋には人数的に考えてこの前のチンピラ共と思われる十人程の連中が控えていることはアルの探知でわかっていた。なので、奴がこの程度で怖気づくとは期待していない。

「それは脅しと捉えて宜しいか? 冒険者を雇って脅迫したとなると、商売の許可証の取り消しも考えねばなりませんぞ」

「そ、それはッ」

 途端にコンラードが焦り始める。

〈チンピラを雇って脅すのは有りなんだろうか?〉

 そう思ったが、権力至上主義のこの世界では理不尽なことにいちいち目くじらを立てていたら切りがないので、考えないでおく。

 よって別のことを口にした。

「誤解ないように。私は冒険者として雇われてこの場にいるのではありません。彼の友人として同席しているに過ぎない。それに言ったはずです。コンラードさんを引き留めても無駄だと」

「ほう、それは何故ですかな?」

「コンラードさんにあの服を売ったのは私だからです。彼に訊いてもその先のことは何も知らない」

 その発言にダカンが驚くのはわかるが、コンラードまで仰天して固まっている。そういえば彼にはこうすると話していなかったっけ。

 何にせよ、これでコンラードが付け回される理由はなくなったわけだ。

「そんな出鱈目を──」

「お疑いならクーベルタン領軍のファビオ中隊長か、彼の部下に訊くと良い。彼らなら私があの服を着ていた姿を見ているから」

 調べれば簡単に裏付けは取れるだろう。ファビオ中隊長や下履きを貸してくれたドリスの顔を俺は思い浮かべる。彼らは元気にやっているだろうか?

 嘘ならもっとマシなことを言うと思ったのか、ダカンはひと先ず信じて話を進めるようだ。

「なら、あの服の元の持ち主はあなたなのか? 一体、どこであのような品を手に入れたのだ?」

「その前に確認しておきたい。彼が秘密にしていたのは偶然知り合った私から買ったということだけ。それ以外は何も知らない。これ以上、彼を引き留める理由は何もないと思うが、いかがか?」

 これでダカンが折れなければ面倒なことになりそうだ。気は進まないが、セレスを通じてクーベルタン伯爵家の力を借りなければならないかも知れない。

 俺は伯爵家の次男でセレスの異母兄であるランベールに求婚されたことを思い出し、背筋に悪寒が走った。

 そのイメージを払拭しようと必死で記憶から追い出す。

 そんなことになっているとは露とも思っていないであろうダカンは、暫し考えてから結論を下した。

「……衛士隊の方には私から口添えしておきましょう。数日後には馬車は返還されると思いますよ」

「今日中に」

 俺はきっぱりとした口調で言った。妥協はしないと態度で示す。

「……いいでしょう。そのように伝えます」

 この期に及んでもダカンは無関係という立場を取り繕うつもりのようだ。

 それでも部下を呼んで何かを指示した。恐らくは詰め所に連絡させたのだろう。

 一連のやり取りを茫然と眺めていたコンラードが、ようやく安堵の表情を見せる。

 だが、それは奴らの追及の矛先が俺に移っただけで火種が消えたわけではないことに気付くと、再び顔を曇らせた。

 こうなったきっかけは俺が作ったようなものなのだから、そんなに気にしなくても良いのに。

 とことん人が良いらしい。

「さて、それではそろそろ教えて頂きましょうか。あの服をどのようにして手に入れたかを」

「教える? 私、そんなことを言いましたっけ?」

 俺はわざと惚けて見せる。実際にそんなことはひと言も口にしなかったはずだ。

「ふざけないで頂きたい。それなら先程までの会話は何だったのだ?」

「ふざけてなどいません。ここから先のことにコンラードさんは関係ないと言ったまで。彼に訊きたかったことは既に知り得たのだから、もう充分でしょう。そうそう、ちゃんと金貨三枚払ってあげてくださいね。そういう約束でしたよね?」

 払わなかったらメルダース商会が嘘を吐いたと言いふらす、そう言って少し脅したところ、渋々金貨一枚を寄越した。コンラードが充分だと言うので、それで見逃す。

 元はと言えば奴らが広場で喧伝したのが原因だから、これは自業自得だ。

「それで服の入手経路については教える気はないということか?」

 金貨を渡し終えると、ダカンが改まった調子でそう訊き、

「教えないも何も」

 と、俺は困ったふりをして続ける。

「そもそも何も憶えていないのだから教えようがないですね」

 そう言うと、澄まし顔で肩を竦めた。

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