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アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ  作者: るさんちまん
王都来訪編Ⅱ 道草の章
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4 雇い主の正体

 監視者はその行動を見ても特に不自然とは思わなかった。

 そもそもが明確な目的を持って移動しているわけでないことは一目瞭然だ。

 唐突に引き返したり、いきなり角を曲がったり、旅先で珍しい物を探して回る旅行者特有の気紛れな行動。

 それだけに監視は容易ではなかったが、自分もそんな怪しい動きをする観光客の一人に扮してしまえばある程度のぎこちなさは解消できる。

 だから監視対象の相手、三人組の女性冒険者が突然、席を立っても「もう少しのんびりしてくれれば面倒が少なくて助かるのに」と思いこそすれ驚きはしなかった。

 彼の基準からすればよそ者、特に女とはそうしたものである。

 監視者は彼女達の正体についてもある程度の知識は得ていた。

 依頼主から教えられたこともあるが、中でも黄金級冒険者である『クーベルタンの戦乙女』の噂は以前から耳にしている。

 当然、自分などが太刀打ちできる相手でないことも。

 もっとも彼の仕事はそうした荒事ではない。対象を見張って、その動向を依頼者に報告するだけだ。剣の腕前は必要なかった。

 重要なのは忍耐力と粘り強さ、そして平凡に慣れること。

 監視をしているからと言ってその相手が何かを企んでいるとは限らない。

 むしろ、その逆だ。

 彼の仕事においては何事も起きないことの方が圧倒的日常だった。

 依頼者にしても何かあって欲しくて監視を命じるのではなく、怪しい点は何もなかったと聞いて安心するのが真の望みだ。

 それ故、彼のように目立たないこと以外に特に取り柄もない者が雇われ、朝からこうしてずっと張り付いているのである。

 従って、この後も彼女達を追って行かねばならない。

 だが、即座に自分もその場を動いてはさすがに不自然さが目に付く。勘が良ければ意識を向けられかねなかった。

 彼の役割にとってそれは致命的な失敗となり得た。

 幸いにも広場の人出はさほど多くはなかったので、彼女らがどこへ向かうのかは立ち止まっていても確認できた。

 細い路地の方へ向かうようだ。

 その通りは道幅こそ狭いものの、格段入り組んでいるわけでもなく、交差する脇道はさらに細くなっており、荷物でも抱えていようものならすれ違うにも難儀する地元の人間でも余程横着をしたい時でなければ滅多に入り込まない街の裏側であることを彼は熟知していた。

 観光客ならまず避けるに違いない。

 なので、多少距離が開いたとしてもすぐに追いつけるはずだ。

 そう判断すると、しばらく間を置き、彼女達がこちらに注意を向けそうにない距離まで離れたことを見届けてから漸く動き出した。

 周囲に不審に思われない程度に歩調を速めつつ、三人が消えた街角を目指す。

 いきなり路地に跳び込んで、万一立ち話でもしている彼女達と鉢合わせては事だ。

 慎重に曲がり角に近付く。

 さりげなく目的地へ向かうふりをして、小路に足を踏み入れた監視者はそこで初めて慌てる。

 彼の読みでは数十メートル先には監視対象の背中が見えていなければならなかったからだ。

 しかし、そこにあったのは彼の仕事とはまるで無関係に日常を営む人々の姿。

 肝心の三人の影はどこにも見当たらない。

 咄嗟に、勘付かれ撒かれでもしたか、と考えたが、すぐに思い直した。

 そんな兆候は見られなかった。彼の経験からしてそれは有り得ない話だった。

 尾行のプロである彼とてこれまで失敗がなかったというわけではない。

 ただ、その際でも必ず何かしらの予兆はあった。自分のヘマだったり、相手の勘が異様に鋭かったり、バレるきっかけは様々だが、しばらく接していれば対象の不自然な動きに気付くのが常だ。

 そこには疑いを抱けば本当かどうかを確かめずにはいられない人間の心理が根底にある。

 振り返るなどは論外だが、他にも急に歩く速度が変わる、立ち止まって足許を気にする、反射する物に目を向ける、違和感ある行動は数え上げれば切りがない。

 そして、そうした仕草を見抜くことに掛けて彼には並々ならぬ自負があった。

 その彼の職業的勘が告げている。ここに至るまでそんな気配は皆無だった、と。

 三人以外に誰か別の者の目でもなければ監視を悟られたとは考えにくい。

 昨日今日やって来た彼女達に、そのような味方がいるとも思えなかった。

 となれば偶然であろう。彼の予測に反して、どこか脇道へ逸れたと考えるのが自然だ。

 そこまで好奇心旺盛とは読み切れなかった。あるいは冒険者という人種はそういうものなのであろうか?

 こんなことなら多少危険を冒してでも素直に後を付けるべきであった。

 だが、後悔してももう遅い。今から一本一本、裏道を調べていてはとても追いつけまい。

 こうなければ闇雲に探し回って偶然発見するのに賭けるか、逗留先は知っているのでそこへ戻って帰りを待つか。いずれにしても監視の目が途切れた時間帯があったことは依頼主に知らせなければならないだろう。

 プロの矜持として虚偽の報告はできなかった。また、嘘が発覚した場合、失う信頼は失敗するよりも遥かに大きい。

〈やむを得ない。依頼主には頭を下げるしかないだろう〉

 それが現在、自分が打てる最善手であると彼は判断した。

 そうと決めたらもはやこの路地裏に留まる意味はない。早速、依頼主がいる館へ足を向ける。

 彼がそこを訪れる際の偽りの身分である御用聞きに途中のどこで変装しようかと考えながら──。


「上手くいったみたいね」

 二人ですれ違うのもやっとという細い路地の一つに身を潜めながら、俺達は監視者が来た方向に引き返すのを見守った。

「でも監視に気付いたことはバレなかったかしら?」

 セレスが当然とも言える疑問を口にする。

「疑いはしても確信は持てないはずよ。そのために偶然見失う可能性がある場所を選んだんだし」

 この通りに足を踏み入れたのはたまたまだが、ちょうど良い横道があったので、それを利用して姿を眩ますことにした。尾行に失敗したとなれば何かしらの行動を起こすに違いないと考えたからだ。

 ただし、こちらが監視に気付いたことはなるべくなら悟られたくない。

 警戒されたくないというのもあるし、いざとなれば知らぬ存ぜぬで押し通すためでもある。

 この辺りは相手が何者かによって変わるだろう。

 さて、ここからはミアの出番だ。彼女には今し方どこかへ向かった監視者の後を付けて貰う。

 身軽なミアは三人の中で最も斥候に適している。おまけにハンマーフェローの路地裏に潜んでいたこともあって、こうした役目にはうってつけだ。

 ただし、こうも言い聞かせた。

「無理に知ろうとしなくてもいいわ。難しいと思ったらすぐに引き返すのよ」

 どうしても向こうの正体を探らなければならないというわけではない。

 明日に備えて念のためにといった意味合いが強い。

 それよりもミアに危害が及ぶのを避ける方が大事だ。

「ん、わかった。行って来る」

 そう言い置くなり、ミアはあっという間に屋根に跳び移って姿を消す。俺達も近付き過ぎないよう注意しつつ、彼女を追って監視者が立ち去った方へ向かう。

 結果的には心配したのは杞憂だった。

 監視者はあっさりと依頼人と思われる相手と接触したみたいだ。

 その場所がやや意外だったことを除けば概ね予定通りと言って良い。

「まさか領主館の目と鼻の先で接触するとはね」

「一応、商人とメイドを装っていたんでしょ?」

「メイドは違うわよ。正真正銘、領主館で働く本物なんだから」

 俺の質問にセレスが真面目な顔でそう答える。

 ミアが目撃したところによると、途中人目のない場所で商人風の格好に着替えた監視者は領主館のある市内中心部へ潜り込んだ。

 そこでしばらく通りをウロウロしていると、領主館から一人のメイドが現れた。

 メイドと言ってもどこぞの電気街にいるようなミニスカートのなんちゃってメイドでは当然ない。黒いロングワンピースに白のエプロンというヴィクトリアスタイルの如何にも使用人然とした姿。

 フードを目深に被り、顔は見なかったらしいが、そこで二人は何かを話した。

 傍からは屋敷の人間が御用商人を呼び止めたとしか見えなかっただろう。

 だが、俺達はそうでないことを知っている。

「このタイミングで領主館へ営業に行くわけがないから十中八九そのメイドが雇い主で間違いないわね。彼女の上にはまた別の誰かがいるんでしょうけど、とりあえず怪しい人物が領主や次期領主の周りを彷徨いていることはわかった」

 その正体もミアには筒抜けだった。

 彼らが立ち去った後、素早くその場に行き、残り香を嗅いだのだ。

 ミアは匂いで他人を識別できるという特技を持つ。直接嗅がなくても匂いが散る前なら凡そわかるのだそうだ。

 そこにあった匂いの持ち主が晩餐会で給仕していたメイドの一人であることを彼女は憶えていた。

 次に顔を見れば即座に指摘できると言う。

「そこから先を調べるには私達には時間も手立ても無いし、ちょっと無理そうね」

 セレスが残念そうに口にした。

 俺としては当面の注意すべき相手が誰かさえ判明すれば成果としては上々だ。

 メイドなら屋敷の外で何かするのは難しいだろうし、そもそも領主家の者を害すつもりならとっくに行っていておかしくない。

 恐らくどこかのスパイといったところだろう。

 それなら明日の薪狩で直接何かをしてくる可能性は低いと見て良いはずだ。

 セレスも同じ結論に至ったようだ。

 ならば、あとは機を見てヴィクトルに伝えれば彼が何とかするに違いない。

 その頃には俺達はいなくなっているだろうが。

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