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アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ  作者: るさんちまん
クーベルタン市編Ⅰ 転生の章
3/81

3 初めての野営

「ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん」

 さっきから同じ言葉の繰り返し。百回くらい呟いて最後にもう一回、ごめんよ、と胸の裡で謝ってから、ようやく覚悟を決めた。

 結局、喉の渇きに耐え切れなかった俺は、さすがに川の水を口にするのは避けたけど、近くに沁み出ていた沢の水を飲んで潤したのだ。

 苔が生えている所の湧き水は飲んでも大丈夫というネット情報を信じて。

 それは良いのだが……。

 喉の渇きを充たせば当然その後やって来る生理現象、すなわち尿意に困っていた。

 無論、周囲にトイレなどはない。

 人気のない森の中だ。野外でしたところで誰に見られるわけでもないだろうと言えばその通りだが──ただし、俺を除けば。

 要するに性的興味より罪悪感の方が勝ってしまったというわけだ。

 そうはいっても我慢にも限度がある。ついに堪え切れなくなって、このままでは洩らすのが必定という事態に至り、冒頭の仕儀と相成った次第。

 木陰に立った俺は、恐る恐るスカートの中に手を突っ込んで、何とかパンティらしき物体を掴むと一気にずり下げる。そのまま腰を下ろす。

「見えてない見えてない見えてない見えてない見えてない見えてない見えてない見えてない見えてない見えてない見えてない見えてない」

 そう声に出して呟きながら、用を済ませる。

 ホント、スカートがあって助かったよ。

 持っていたポケットティッシュで軽く拭いて(その程度の知識はおっさんにだってあるのだ)、立ち上がるとパンティを元に戻した。

 これだけで、ドッと疲れる。

 とはいえ、このまま時間が過ぎるのに任せているわけにはいかないだろう。

〈そろそろ本気で今後を考えないとな〉

 これが夢とか幻覚とかいうなら、何もしなくとも放って置けば良い。

 だが、百歩譲ってそうでなかった場合はどうするべきか。例えば本当に異世界だったりしたら?

〈やっぱり、この身体を傷つけるわけにはいかないだろうしな〉

 俺が木南優希の身体に乗り移って、元々の彼女の意識がどこに行ったのかはわからない。しかし、完全に消えてしまったと判断するのは早計だろう。

 もしかしたら俺の身体でこの世界のどこかに居るのかも知れないし、そもそも覚醒していないだけで、この肉体に眠っていることだって充分あり得る。

 いずれにしても彼女に返すべき身体だ。ぞんざいに扱うわけにはいかない。

 俺の身体の方は、まあ、どうだっていい。現世の暮らしにそれほど未練があるわけでもない。

 そうなると、いつまでも森の中というわけにはいくまい。

 まずは食べ物、そして寝る場所の確保が必要だ。

 ここがどんな世界かは不明だが、人がいる以上、住んでいる村や町があるに違いない。

 ひと先ずそこを目指すのが、妥当な道のりと言えよう。

 あとは出たとこ勝負とするしかなさそうだ。


 そんな風に決めたものの、既に陽は傾き始め辺りが薄暗くなってきたので、今夜はこの場で野営を決意する。

 ここが知っている世界で知っている生き物しかいないというなら、まあ、それが正解。趣味のソロキャンプの腕前を活かす意味でも安心できる。ただし、どんな危険な動物や……考えたくはないがモンスターが潜んでいるかも知れない状況では、必ずしもベストな選択とは言い切れないだろう。もしかしたら、襲ってください、と宣言しているようなものかも知れないからだ。

 特に森の中を闇雲に歩き回るという愚行を犯すならともかく、幸いにも川という目印があるので、これに沿って下って行けば道に迷う恐れはほぼない。いずれ人里に出るか、最悪でも森を抜けられる可能性は高いと思う。

 もっとも襲われる危険は移動しても同じことだし、暗闇を歩くリスクを考えて、結局は留まることに決めた。まだ、心のどこかで、待っていればそのうち目が醒めるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのかも知れない。

 一瞬、盗賊達のいた場所に戻れば隠れ家や砦のようなもの、それが無くても荷物くらいは残っているのではないかと考えたが、恐怖に足がすくんでとても向かう気になれなかった。生き残りがいないとも限らない。

 そんなわけで野営するに当たっては、定番の薪集めから始める。といっても、ここは森の中だ。枯れ枝を拾うのにそれほどの苦労はない。

 体感にして小一時間ほどで集めた枯れ枝は、焚き付けとして用意した枯れ葉や油分が多そうな樹皮、松ぼっくりに似た乾燥した木の実などを置いた上に、重なり過ぎないよう載せる。火口(火種となる着火しやすい燃料)には、以前に漫画で得た知識でポケットの中に堪った繊維くずを利用する。

 残るは肝心の火を熾す方法だが、紐切り式や弓切り式の火熾し機を作るには材料も時間も足りないので、より原始的な錐揉み式にするしかなさそうだと考えていたのだが、ふと思い付いてポケットに入っていたスマホを分解し、内部のリチウムイオンバッテリーを取り出す。一緒に入っていた充電ケーブルの導線を利用してプラスとマイナスを結び、火傷に注意しながら接地部分に火口を押し当てると、あっという間に燃え上がった。急いで焚き付けに持っていき、あとは一心不乱に吹いているだけで、火熾しは無事完了。

 今後も使うかも知れないと思い、バッテリーとケーブルは一旦所持しておくことにしたものの、残りのスマホ本体は学生証と共に近くの木の根元に埋めた。元々ロックが掛かっていて開けなかったことに加え(誕生日や出席番号などを組み合わせて解除を試みたものの、さすがにそこまで単純ではなかった)、明らかにこの世界に不釣り合いな物を持っているのはトラブルの元になりかねないと考えたからだ。あとで文句を言われたら平謝りして何とか許して貰おう。

 さすがに食糧となる野生動物を狩るスキルは持ち合わせていなかったので、今日のところはこのまま寝るしかない、そう思っていたのだが──。

 異世界はそんなに甘くはなかった。

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