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アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ  作者: るさんちまん
クーベルタン市編Ⅳ 初陣の章
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3 魔物牽引

「こんばんは。この前の人達ですよね?」

 俺は受付で成果を自慢する三人組に声を掛ける。

「お前は──」

 そう言ったきり、彼らは絶句する。はて? それほど引かれるようなことをしただろうか?

「……何の用だ?」

 警戒心を露わにした表情でそう訊ねられた。

「いえ、偶然見学に来ていたら歓声が聞こえたもので。先日は大変失礼なことをしました。あの後、よくよく考えてみたら皆さんは親切にしてくれようとしただけなんじゃないかと思い直しまして。それなのに私ったら慣れない土地で過剰に反応してしまったみたいで、今度会ったら謝ろうと思っていたんです」

 適当な出任せを口にする。

 尚も疑いの眼差しを向けられているのは無視して、俺は彼らにすり寄り、無邪気さを装いながら質問した。

「これって凄い魔物の素材なんですよね? 他の人達が話しているのを耳にしました」

 そう言うと漸く彼らも警戒心を僅かながら解き、得意気に語り始める。

「ああ、そうだ。どうせ魔物の種類を言ってもわからないだろうが、紅鉄の冒険者だって狩れないような獲物ばかりだぜ」

「そうそう。買取額も全部で金貨二枚は下らない素材さ」

「普通だったら最低でもベテラン冒険者が十人くらいで挑まないと勝てない相手だからな」

 それを三人で斃したなんてすごぉーい、と我ながら間抜けな発言で持ち上げる。

「どうやって戦ったのか、是非聞かせてください」

 そう言うと、途端に彼らは口籠り出した。

「それはその、三人で連携して……」

「地形なんかも上手く利用してだな……」

「あれ? どうかしたんですか?」

 俺は尚も好奇心丸出しなフリをして追及していく。すると、彼らのうちの一人が、詳しいことは秘密だ、と口にした。

「それだ──いや、そうだ。君は知らないだろうが、冒険者に強さの秘密を訊くのはマナー違反なんだよ」

「そうだったんですね。知らずに訊いてしまってごめんなさい」

「まあ、いいさ。ただ、我々冒険者は日々命懸けで依頼に取り組んでいる。スキルや戦術はその命綱で、おいそれと他人に教えるものじゃないのさ」

 そう言って、鷹揚そうなところを見せる。俺はそれに冷や水を浴びせるようなひと言を発した。

「てっきり不正をしたから言えないのかと思っちゃいました」

「何だと」

 途端に若者達がいきり立つ。

「どうも態度が妙だと思ったら、初めから難癖を付けるつもりだったんだな。言っておくが、俺達はやましいことなんて何もしてねえぜ」

「それは残念ですね。うっかり口を(・・・・・・)滑らせて欲しい(・・・・・・・)、なんて都合良くはいかなかったですか?」

「当たり前だ。そんな簡単に口を滑らせたりするかよ」

 うん、相変わらず魔眼の効果は絶大だ……ってまさか、素で言ったわけじゃないよね?

「ちょっと待って。今のはどういう意味なの?」

 追いかけて来たセレスが耳聡く聞き付けて、そう詰問する。

「どういう意味って……あっ、いや、違うんだ」

 漸く自分の失言に気付いたらしい若者が、慌てて言い訳しようとする。

「別に俺達はわざと引き連れたわけじゃないっていうか……」

「おい、馬鹿。それじゃバレるだろ」

〈君のそのひと言も余計だね〉

「引き連れたってまさかあなた達、魔物を牽引したってこと?」

 魔物を牽引……? 疑問に思っていると、隣に並んだギルド職員の女性が、魔物を討伐せずに引き連れたまま移動することだと小声で教えてくれた。MMORPGで言うトレインのことだろう。当然ながら危険な行為で、万一それで被害が出れば過失であっても相応のペナルティーが課せられ、故意であれば冒険者資格剥奪の上、犯罪者として裁かれることになると言う。

「でも、それだけじゃ素材を採取できた説明にならない。そうか、『擦り付け』を行ったのね。間違いない」

 『擦り付け』というのは、恐らく牽引した魔物を他の冒険者に押し付ける行為に外あるまい。わざと行えばMPK──モンスターを使った冒険者殺害プレイヤー・キラーということになろう。

「擦り付けた相手はヴァレリー達ね。だから彼らの帰還が遅れている。ひょっとしてわざと……?」

「ち、違う! 狙ってしたわけじゃない。偶然だ!」

 魔眼を使っていなければ疑うところだが、故意でないというのは本当のようだ。

「そ、そうだよ。俺達は逃げろと言ったんだ。それなのにあいつら、わざわざ立ち塞がって勝手に戦い始めたんだ。あんなの俺達のせいじゃないだろ」

 馬鹿ね、とセレスは心底呆れたように呟いた。どうしてヴァレリー達が立ち向かったかわからないの?

「あなた達が探索していたであろう場所とヴァレリー達がいたはずの場所を考えれば、北から南に逃げて来たことはわかる。そしてその先にあるのは新人や採取専門の冒険者がよく行く『朝霧の草原』よ。もしヴァレリー達がいなければ、彼らに被害が及んでいたでしょう。どうして逆方向に逃げなかったの……って、これは訊くまでもないか」

 職員のお姉さんによれば、逆方向に逃げれば森の奥深くに入り込むことになる、そうなればさらに凶悪な魔物に出遭う可能性が高くなるためそれを避けたのだろう、とのこと。

「仕方がなかったんだ。探索中にいきなり襲われて、俺達の技量じゃ逃げるのに精一杯で……」

「嘘ね。大方、魔物の姿が見えないと思って巣にでも足を踏み入れたんでしょう。それが見つかって追われる羽目になった。しかもヴァレリー達に擦り付けた後、わざわざ戻って巣にあった食べ残しを漁ったわね。それがあの戦利品に違いない。自分達を助けてくれたパーティーの支援もギルドへの報告もせずに、利益のみを優先させたんでしょ。あなた達の処分は追ってギルドが下すとして、それで一体、どんな魔物を擦り付けたのよ?」


狂乱猛虎ファナティック・タイガーだよ」


 突然、背後から投げかけられたその声に振り返ると、戸口に寄りかかるように立つフィオナ嬢の姿があった。

「フィオナ!」

 セレスがそう叫び、急いで駆け寄る。幸い大怪我はしていないようだが、全身傷だらけで、今にもその場に崩れ落ちてしまいそうだ。

「あたしは大丈夫だ。それよりヴァレリー達が危ない」

 セレスに支えられたフィオナが近くの椅子に腰を下ろしながらそう言う。

「一緒じゃないの?」

「ああ。ナゼルさんやイングリッドが気を引いた隙に、あたしだけ何とか脱出したんだ。このことを知らせるためにさ。けど、もう知っているみたいだな」

 おや? これは魔眼を使う必要はなかったかな? 静観していても若者達の悪事は露見していたっぽい。

「彼らに魔物を擦り付けられたところまではわかっているわ。狂乱猛虎ファナティック・タイガーってホントなの?」

「嘘なもんか。そこいらの魔物なら、あたし達にだって殺れているさ。さすがに危険度Aランクの魔物相手はセレス抜きじゃ厳しかったよ」

 狂乱猛虎ファナティック・タイガーとは相当な強敵であるようだ。その証拠に、遠巻きに見詰める冒険者達の間から「マジかよ」と驚きの声が囁かれる。

「発情期で居場所を変えたのね。普通はもっと森の奥深くでしか出逢わない魔物だもの」

「たぶんな。何とか北の峡谷まで引っ張って行って振り切ろうとしたけど、無理だった。それであたしらが避難場所セーフゾーンとして目を付けていた崖の裂け目があったろう? そこに身を隠すことにしたんだけど、ヴァレリーが深手を負って」

「そんな……無事なの?」

「イングリッドの治癒魔法と回復の水薬(キュア・ポーション)で何とか保っている。けど、なるべく早く本格的な手当てを受けさせないと手遅れになりかねない。だから危険を冒してまであたしを行かせたんだ」

「わかったわ。すぐに救助に向かいましょう」

 そう言ってセレスは立ち上がるなり、受付の前で所在無さげに小さくなっていた三人組の若者達に近付くと、こう言った。

「残っている消耗品を全部出しなさい。薬も食糧も全てよ。代金は払ってあげるわ。それから馬の手配を──」

「お待ちなさい、セレスさん。話は聞いていました。あなたを行かせることはできません」

 その声は二階から階段を下りて来る中年男性のものだった。

「ギルド長! どうしてですか? これは依頼じゃありません。ギルドに止める権限はないはずです」

 ギルド長ということは彼がこの冒険者ギルドの責任者なのだろう。如何にも役人然とした風采で、膝に矢を受けて引退した元凄腕の冒険者とか、見た目は妙齢の美女ながら実はウン百歳の魔法使いとかじゃなくてちょっとがっかりだ。

「忘れたのですか? 既に市門は閉じられていますよ。怪我や病気などで治療が必要な者以外夜間の出入りは禁止です。幾ら領主家の者でも法を破ることは許されない」

「それならギルドの緊急時における特別通行許可証を申請します。あれがあれば夜間の出入りも問題ありません。冒険者の救助はこの発行条件に該当するはず。直ちに交付をお願いします」

 セレスが必死になって訴える。だが、彼は無情にも首を横に振った。

「どうも覚えておられないらしい。許可証を受け取る条件はパーティー単位であることが必須です。現状、お一人であるセレスさんはこれに当て嵌まりません。ですからお止めしたのです」

「あっ──」

 そう口にしたと思ったら、セレスは言葉に詰まる。ギルド長の言ったことに間違いはないようだ。

 暫し茫然としていたセレスだが、すぐに立ち直ると、ギルド内にいる冒険者に向かって語り出した。

「……聞いての通りです。私は救助には行けないみたい。今からパーティーを組んでとお願いしてもこの有様では無理でしょうから、代わりに助けに行ってくれる冒険者を募集します。もちろん、報酬は支払うわ。これは正式な依頼よ。時間がないの。受けてくれるパーティーは名乗り出て欲しい」

 ギルド内のあちらこちらで顔を見合わす冒険者達の姿が窺えた。だが、名乗り出るパーティーは一組もない。

「悪いんだが、相手が狂乱猛虎ファナティック・タイガーと聞いちまったら俺達、紅鉄級じゃ荷が重い。せめて翡翠か白銀のいるパーティーなら受けられるかも知れないが」

「ああ、その通りだ。白銀級がいるパーティーとなるとハンスかレオナルドのところだが、生憎とどちらも長期依頼に出ていてあと三、四日は還って来ないだろう。ルートリッヒのところは怪我人が出て休養中だしな」

 どうやらこの場に紅鉄級を超える冒険者を抱えるパーティーは一組もいないみたいだ。最初にセレスと遭ってしまったせいで白銀級と聞いても大して驚かなかったが、実はヴァレリー達ってかなりの実力者なのではないだろうか。

「すまないが俺達も自分や仲間の命は大切だ。身の丈に合わない依頼を受けてそれらを危険に晒すわけにはいかない」

 冒険者達の一人が代表してそう告げた。彼らとしても断腸の思いなのだろう。

 それを聞いていたフィオナが敢えてと思われる気軽な調子で口を開いた。

「いいさ。あたしが行くよ。セレスと組めばパーティーとして申し分ないだろ? この際、冒険者を続けられなくなるとか言っている場合じゃないしな」

「駄目よ。そんな身体で連れて行くわけにいかないわ」

「大丈夫だって。ちょっと休んで体力も回復したみたいだし。ホラ、この通り」

 フィオナが立ち上がってその場でジャンプする。が、無理をしているのが見え見えだ。

「嘘ばっかり。足許がふらついているじゃない。ヴァレリー達を助けてもあなたが死んだら元も子もないのよ」

「だから問題ないって言ってるだろ。あたしを舐めるな、この石頭」

「何を言っても無駄よ。今のあなたと組むくらいなら青磁級の冒険者を連れて行く方が余程マシだわ。諦めて大人しくしていることね」

「いいから連れてけ。大体、お前は──」

「はいはい、そこまでよ」

 パンパンと手を叩き、俺は二人の口喧嘩に割って入る。こっそりと受付の前に移動しておいてだ。そして手にした冒険者登録の申請書をピラピラと振ってみせる。

「青磁級の冒険者でも良いって言うなら話は早いわ。確か白銀級以上の推薦があれば即座に冒険者になれるのよね? もちろん、推薦してくれるんでしょ?」

 そう言って周囲が唖然とする中、ニッコリと微笑んだ。

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