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アラフォーおっさんの美少女異世界転生ライフ  作者: るさんちまん
クーベルタン市編Ⅲ 交流の章
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5 伏魔殿

「じゃあ、セレスは実のお兄さんから妨害を受けてるってこと?」

 名指しで依頼を避けられている原因がランベールという人にあるなら、そういうことになろう。

「兄が直接、命じたわけではないでしょうけどね。さっきユウキと遭った場所──ビスターク商会は領内でも屈指の豪商で、クーベルタン市における冒険者ギルドの依頼の半数近くに関係しているの。それ以外の依頼主も大半は商会に目を付けられたらやっていけない規模の店なり商売なりだから、逆らうなんてとんでもない話ね。そのビスターク商会が、依頼の条件として私を除外するよう圧力を掛けてきているのよ。当然、受けられる依頼なんて一つも無いわ」

 正規の手続きである以上、冒険者ギルドも依頼内容には口を挟めないそうだ。

「でも、セレスだって伯爵令嬢なわけだし、そんな貴族にケンカを売るような真似して平気なの?」

 幾ら豪商で金持ちとはいえ、身分が平民であることに変わりないはずだ。堂々と領主家に逆らって商売ができるとは思えないのだが……?

「普通は潰されるわね。でもビスターク商会はランベール兄様が贔屓にしていて、その庇護下にあるのよ。大店になれたのもそれ故と言っていい。だから領主家の威光は通用しないし、兄様が関わっていないはずがないのよ」

 妨害を容認されていることが即ち、裏で糸を引いているのが彼自身であることの証に他ならないと言う。

「そのランベール……様とは話してないの?」

「話したわ。けど、惚けられて終わりよ。自分は知らないってね。だから直接会って確かめようと商会の会頭、カリスト・ビスタークに面会を求めたんだけど、結果は見ての通りよ」

 それがあの押し問答だったわけか。けど、まだわからないことがある。

「でも、どうして妨害なんてことを?」

「たぶん、兄様は私を嫁がせたいのでしょう。できれば自分が懇意にしている有力貴族か平民でも実力者の下にね。嫡子でもない貴族の子弟なんて普通は政略の道具か只の御飾りでしかないもの。それでも男子ならまだランベール兄様のように領主や次期領主の補佐という形で公職に就くこともできるけど、女ではそれすら望めない。私はそれが嫌で必死になって剣の腕を磨いたのよ。いずれは自分の力で生きていくためにね」

「それで冒険者に?」

 フィオナも女が一人で生きていくには下働きをするか、身体を売るか、冒険者になるくらいしかないと言っていたしな。さすがに前者二つは領主の娘として許されないだろう。

「そうよ。成人した直後に周囲の反対を押し切って登録したわ。一応、国法上は成人した者を無理に家の意向に従わせることはできないからね。けど、ランベール兄様はそれが気に入らなかったみたい。兄に限らず女は家のために尽くすべきと考える人は少なくないわ。もっとも駆け出しの頃は早々に音を上げると思ったのか静観されていたけど、王都での大会で好成績を収め黄金級になって以降は露骨に引退を勧められるようになって。たぶん、縁談の申し込みが増えたせいでしょうね」

 クーベルタンの戦乙女として名を馳せたセレスなら多くの貴族にとって伴侶として迎い入れるのに申し分ないということに違いない。

「私は冒険者を辞める気なんてなかったから無視していたら実力行使に出られたってわけよ。元々好かれているとは思っていなかったけど、こうまで嫌われていたとは考えが甘かったわ」

 要するにセレスの冒険者として道を閉ざすことが目的らしい。それにしてもやり口が陰険だ。

「領主様や上のお兄様は何も言わないの?」

「父は……領内の経営に忙しくて、娘のすることにいちいち口出ししたりはしないわ。元より貴族の娘が冒険者になるなんて快く思っているはずはないしね。家名に泥を塗らなければ勝手にしろといった感じよ」

 おや? セレスは父親とは上手くいっていないのだろうか? どことなく棘のある言い方だ。

「上の兄、ギュスターヴ兄様は何と言うか、呑気な方だから訴えてもランベール兄様に丸め込まれてしまうでしょうね。あまり大きな声では言えないけど、実際に父の片腕として実務を担っているのはランベール兄様の方なの。口さがない連中はギュスターヴ兄様を只の添え物とか言っているわ」

〈おいおい、そんなことまで部外者に話してしまって大丈夫なのか?〉

 時代劇じゃあるまいし、余計なことを耳にしたせいで命を狙われるなんて御免被るよ。

「念のために訊くけど、もしもセレスがランベール様の言い付け通りに有力貴族に嫁いで彼の味方が増えたら、次期領主が変わるなんてことも有り得る?」

「家は嫡男が継ぐべしという貴族の伝統があるから簡単にはならないでしょうけど、ランベール兄様を支持するのが上級貴族だったりした場合、まるっきり無視するわけにはいかないでしょうね。もちろん、建前上は他家の後継者選びに口を出すのは御法度だけど、ギュスターヴ兄様に何らかの落ち度があったりすればあるいは……」

 まったく可能性がゼロの話ではないようだ。


 話しているうちにのぼせてきたらしく、セレスがお湯から出て巨大浴槽の淵で涼み始めた。そのままだと少々刺激の強過ぎる映像を真正面から受け止めることになるため、俺も慌てて彼女の隣に移動する。

 強靭な意思の力を以てしてセレスから視線を引き剥がしつつ周囲に巡らせていると、脱衣所で見かけた豹人親子の姿が視界に入った。それで気になっていたことを思い出した。

「そういえばセレスは亜人に偏見がないんだね。偉い人は一緒にされるのを嫌がるのかと思っていたよ」

「──普通はそうよ。貴族だけじゃないわ。平民でも裕福な家の者は亜人に嫌悪感を持つ人が多いわね。中には魔王の眷属だって主張する人もいるくらい」


〈……そっかぁー、魔王っているんだ、そうなんだぁー〉


 こちらに来てから魔王や勇者って話を聞かないから、物語の中だけかと思っていたよ。

「魔王ってやっぱり世界を滅ぼしたりするの?」

「まさか。原初の怪物じゃあるまいし、そこまで強大な力は持ってないわよ」

 原初の怪物……? 聞き馴染みのない謎単語ワードが飛び出してきたぞ。

「魔王っていうのはね、何らかのきっかけで魔物や人に実体を持たない邪悪な存在、一般には『虚ろなるモノ』なんて呼ばれたりしているけど、そいつが憑り付いて生まれる奴のことよ。そういう個体は大抵知能が高くなり、統率力もあって、ずる賢い。私達はそういう魔物を『魔王』と呼んでいるの」

〈魔物の中の王だから『魔王』ってことか。全人類と敵対する絶対悪とかじゃないんだ。『虚ろなるモノ』というのは俺達の世界で言う悪魔的なものだろうか?〉

「そこまで強くないと言っても過去には村や町が滅ぼされたりした例はあるから、油断ならない相手であることに変わりないんだけどね。並の冒険者ではたちまち蹴散らされてしまうわ」

「どこからか勇者が現れて討伐してくれるとか?」

 俺はありがちな設定を述べてみた。それなら関わらずに済んで安心だ。

「勇者は現れるんじゃなくて、神託によって選ばれるものよ。といっても教会の偉い人がそう神の声を聞いたと主張しているだけなんだけどね」

 教会というのはこの世界の創造神と信じられているティアマトを崇める宗教組織だと聞いた憶えがある。創世神教会というのが正式名称らしいが、他の神様は皆ティアマトが生み出したとされているので、この世界では絶対的な権限を持ち、それ故に単に教会と言えばこの宗派を現すらしい。ティアマトが俺の知る古代メソポタミア神話の女神と同一なのかは不明だ。

「まあ、だから信じる人は信じるし、そうじゃない人は首を傾げるわ」

「セレスはどっち?」

 試しに俺は訊ねてみた。

「私? 私は信じてないわよ。少なくとも勇者じゃなきゃ世界は救えないなんてね。彼らが破格の力を持つことは認めるけど」

 宗教によって決められるんじゃ、うっかり勇者を名乗ったら色々と揉めそうだ。

「でも、本当に警戒すべきは原初の怪物の方だっていうのはユウキも知ってるでしょ?」

 ──いえ、知りません。

 さっきもその名前が出てたっけ。

「えっと御免、セレス。聞いたことはあるけど、よく知らないんだよね」

「本当に? 王国じゃ、子供でも知っているわよ」

 何とか誤魔化してセレスから原初の怪物について聞き出すことができた。それによると、この世界に人類種や魔物が登場する以前からいたとされる十一体の怪物のことを指すそうだ。

「セレスは見たことがあるの?」

「ないわよ。あったらここにはいないでしょうね」

 ふーん、そうなんだ。十一体もいたら一度くらいは出遭いそうなのに。俺がそう言うと、そんなわけないでしょ、と呆れたように否定された。

「全部いたら世界なんてとっくに滅んでるわよ。言い伝えでは十一体とされているってことよ。これまでに確認されたのは三体だけね」

「退治したりしないの?」

「そんなことは無理よ。勇者でも命懸けで撃退するのに精一杯って話なんだから」

 どうやら台風や地震に立ち向かうのと同じ感覚みたいだ。そりゃ、無理だよね。

「じゃあ、襲われたりしたら?」

「祈ることくらいしかできないわね」

 それってお手上げってことか。うーん、厳しいなぁ。

「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫よ。そもそも滅多にないことなんだから。最近だと東の大陸にあるエルフの古い都が邪竜に滅ぼされたのが約五百年前ね。それ以来、現れてはいないわ」


 ──フラグじゃないことを祈ろう。


「もっとも東の大陸には本物の魔王もいるっぽいけどね」

「本物の魔王……?」

「ええ。どういう基準なのか詳しくは知らないけど、『虚ろなるモノ』に憑依されたわけじゃない元より神の仇敵と見なされている存在のことよ。そいつらは『真なる魔王』と呼ばれているらしいわ。実力も俄か魔王とは段違いとか。でも西の大陸(ローレンシア)に出たって話は聞かないから、私達には関係ないことでしょうよ」

 やはり、盛大なフラグにしか思えないのだが……。


 随分と話が脱線してしまったようだ。

〈元々はどうしてセレスに亜人への偏見がないのかという話だったな〉

 改めて俺がそのことを訊ねたら、あっさりとわけが紐解かれた。

「貴族と言っても私は他の兄弟姉妹と違って庶子だもの。十歳までは平民として下町で育って、父親が誰なのかも知らなかったわ」

 意外な告白だ──いや、そうでもないか。貴族にしては随分と砕けた態度だと思っていたら、そういうことが理由だったらしい。雰囲気的には秘密でも何でもないのだろう。確か宿屋の女将さんが、貴族様と言っても色々だからと言っていたのはこのことのようだ。

「十歳の時に母が亡くなって、突然領主家から迎えが来た時は驚いたの何のって。父親は死んだと聞かされていたからね。まさか自分の母が領主のお手付きだったなんて思わないわよ。その時にはもうお亡くなりになっていたけど、先代の奥方様が側妾そばめを持つのを許さなかったみたいね」

 それで市井で暮らすことになったそうだ。相応の生活費も送られていたが、母はそれには一切手を着けず、先妻が亡くなってからも父の召し出しに応じることなく、慎ましく生きる道を選んだと言う。

「あとになって知ったことだけど、父が母に送った生活費はすべて私のために残してあったわ。それがあったからこそ冒険者になるのに誰の助けも借りずに済んだのよ。もしそうでなければきっと許されなかったでしょうね」

 父親に引き取られ、貴族として領主館で生活するようになったのはそれからとのことだ。

「だから亜人に偏見がないのは当然なのよ。幼い頃は子供の彼らと野山を駆けずり回っていたんだから」

 ついでに他の兄弟姉妹について訊ねてみると、上の兄二人と既に他家に嫁いだ姉二人が先妻の子で、下の弟一人と双子の妹二人が再婚相手である現在の伯爵夫人の実子ということだった。当然ながら庶子はセレス一人だ。なお、今の義理の母親や弟妹達との仲は比較的良好だと彼女は話した。

 そうして二時間程出たり入ったりをしながら公衆浴場で過ごした後は、裸の付き合いをしたそのままの流れで彼女の愚痴に付き合う羽目になってしまった。暇だからまあいいけどね。

 セレスがよく行くという居酒屋風の店で夕食を取りながら彼女の不平不満に耳を傾ける。

「それなのにイングリッドったら私にも落ち度があるって言うのよ、ねえ、ユウキ、聞いてる?」

 はいはい、聞いてますよ。

 実はその話はこれで三度目だ。ちょっと飲み過ぎていないか?

 どうやら彼女は結構な酒好きらしく、さっきから見ていると、蜂蜜酒ミードを飲み干すペースが相当に早い。

 俺はというと彼女に強引に付き合わされて、麦芽酒エールにチビチビと口を付けるに留めていた。

 やがて、心配は杞憂では終わらなかった。

 酔い潰れたセレスを前に俺は途方に暮れる。

 きっと飲む以外に娯楽が少ないせいだろう。この世界では羽目を外す酔客の姿は珍しくなく、店側も慣れたもので大抵は放って置かれるが、それにしても年頃の若い娘が人前で無防備に酩酊するのはどうかと思う。

 有名人で伯爵令嬢ということが公になっているセレスに悪さをしようという不届き者はまずいないから、やれることに相違ない。

 さすがにこの状態で領主館に送り届けるのは、彼女の名誉のためにも避けた方が良さそうな気がする。下手にランベールの耳に入って、冒険者を辞めさせる口実に使われても困るしね。

 仕方がないので俺は彼女に肩を貸して無理矢理歩かせ、途中で辻馬車を拾って何とか宿屋まで連れ帰る。背負わなかったのは鎧を着た彼女に対して今の非力な身体では厳しかったからだ。

 突然の来訪者に驚く女将さんにもう一人泊める許可を貰い、部屋まで運んでどうにかベッドに寝かしつけた。連れ込んだのがセレスだと知った女将さんが目を丸くして呆気に取られていたのはスルーだ。

 なお、俺自身は床で寝るつもりだったのだが、あまりに背中が痛くて途中で諦め、躊躇いがちに彼女の隣に潜り込んだ。誓って何もしていないので、これくらいは大目に見て欲しい。

 すやすやと寝息を立てる彼女からは何とも言えない良い匂いがしていたとだけ付け加えておこう。

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