side:ユノ
「ユノって、ギルド職員目指してるんだっけ?」
「えー、ギルド職員なんてお堅くない?」
「……」
場所は学校の教室。
この国では12歳から14歳までの三年間を学校で過ごす人間が一定数いる。比較的裕福で、子供に仕事をさせなくても学校に通わせる程度の余裕がある家がほとんどだ。
この辺では農家が多いため、子供にも手伝って貰い農業を営む人が多い。自然と学校というのは閉じられたコミュニティになりやすい。
「ああ、でもユノの家って貧乏だもんね。自分で稼がないとね」
「でもそれなら金持ちの商家に嫁いだほうがいいんじゃない」
「ユノみたいな固い子には無理だよ~」
目の前で言いたい放題いっているのは、この学校の中でも比較的裕福な家の人間だ。農家の学生は自然と少なくなるため、農家の人間は自然とターゲットにされやすい。
「おーい、なにやってんだ」
「あ! エイタ~、どうしたのぅ~?」
男が来た瞬間に、先ほどの毒舌はどこにいったのか、ぶりっ子をし始める。こういう強かさがあれば、私もこの学校でもう少し楽しく過ごせたのだろうか。
「帰りに最近できたっていう店に寄ってこうと思ってな。どうだ」
「いくいくぅ~!」
「……ユノも一緒に行かないか?」
気を使って声をかけてくれるエイタ。見えないところでこちらを睨む女子生徒二人の視線が来るなと言っている。
「私は遠慮しておくね。もうすぐギルド試験もあるし、誘ってくれてありがとう」
「そうか……残念だけど、またいつか一緒に行こうな」
そう言って去っていく三人。声が聞こえなくなったあたりで、ハアとため息を付く。
(そもそもお金もないので一緒にいけないしなぁ)
空いた時間でギルドの十位の仕事をこなして、やっと生活できるレベルなのだ。学校帰りに買い食いできるほど、余裕もない。
ギルド試験。
試験自体は卒業間近の時期にある。そのため商家の人間である彼らのような人は、既に実家を継ぐことが決まっている人も多く、試験自体を受けない人も多い。国の公務員なので給与は安定しているが、既に成功している商家の人間からすると、夢がない仕事に見えてしまうのだろう。
(私は女で、兄もいるからなぁ)
基本的に農地の相続は長子がする。女はどこかに嫁ぐのが基本だ。私のように街に出て、何か仕事を探すタイプも多い。
仕事を探すにしても学校を出ているか出ていないかで就ける仕事先だって変わってくる。そういう意味で私は両親の理解があって恵まれていた。
休みの日。
私はギルドの建物へ向かう。建物を見ると、いつか絶対ここで働いてやるという熱意を再確認できる。
貼られているクエストを見ると、いくつかのお使いクエストが貼ってある。クエストを剥がし、受付へ持っていく。
「これをお願いします」
「はい、承りました」
今日は既に森での薬草採取の仕事がなかった。誰かに取られたのだろう。あれは採れば採るだけお金になるので、人気はないが穴場のクエストである。
しかしお使いクエストもバカにできない。
「ユノちゃん、いつもありがとうね」
「はい! またお願いします!」
こうして顔をあらかじめ売っておけば、私がギルド職員になったとき顔が利くようになる。村の出張所にいたギルド職員の方からのアドバイスを忠実に守る。特に農家出身の私は、こういった顔を売ることをしていかないと、あとあとで苦労するのだ。
こうして小銭を稼ぎながら、私はギルド試験に向けて勉強をする。
試験まで、残り半年。