04
ギルド員になって初戦闘。初勝利。
それは決して華々しい戦いではなく、泥臭いものだったが勝利で終わった。
「はあ、はあ、はあ……」
先輩は、先ほど傷口に毒消しを塗って、動ける程度には回復していた。ゴブリンの矢の先に毒が塗ってあったらしく、動きを阻害していた。同僚は意識を失っているだけらしく無事。
私は、まだ初めての戦闘の印象が残っている。
届かない、負けると思っていたその一瞬は、奇跡的に吹いたその風のおかげで届いた。
(まるで奇跡のような、あの風は一体……)
「まるで、童話に出てくるような風だったな」
「童話……?」
「ああ、風の魔女が遺したと言われる風魔法だ」
風の魔女。
その魔女は、かつて世界を轟かせた魔女として有名だ。いい魔女だったが、悪い魔女だったかは国によって受け取り方が違うが、この国では童話になるほど、いい方向で受け入れられている。実際には魔女は風魔法だけなく様々な魔法を使ったとされているが、童話になっているのは風魔法を使ったお話だ。
風の魔法の童話の第一話で出てくるのは『風の後押し』という魔法だ。
その魔法は、悩んでいたり、一歩踏み出せない人の背中を押すといったお話だ。物語では好きな人に告白が出来ない人が、風魔法で押され一歩踏み出したことでいいことが起きる。そんな背中を押してくれる魔法。
「その魔法が私に……?」
「さあな。だがあの時、それを一番感じたのは君だろ」
分からない。だけど確かにあの時、私の足りなかった一歩を埋めてくれた。どちらにせよあの奇跡のような風がなければ、私はゴブリンに負けていただろう。
偶然かもしれないが、私は魔女に感謝しておくことにした。
そうして二人は、動けるようになったところで冒険者ギルドに帰り、状況を本部に報告。
結局しばらくの間、危険なので近くの森へは入れなくなってしまった。
だからこうして今は、地味な事務作業をこなす。
今でも、あの時のことが思い浮かぶ。その時の状況が未だ現実味がなく、思い出すとフワフワとした気持ちになる。
(こんなんじゃダメ……私は、もっともっと強くならないと)
まだまだ自分の力不足も感じた。私がもっと強かったら、私の心がもっと強かったら、そんな後悔はもうしたくない。これから、もっと鍛錬を増やしていかないと。そんなことを考える。
「あ、ユノ!」
「……ハルト」
そういえば今日、退院だっけ。あれから、しばらく療養していたハルトだったが、今日から復帰か。
「ユノ、あの時は本当にありがとう! っていっても、俺意識を失ってて何も知らないんだけどさ。ただお前が守ってくれたって聞いて、感謝してもしきれないよ。それに――」
「はいはい、感謝はいいから。溜まった事務作業を手伝ってね」
「あ、ああ」
何か言いかけていたが、そんなことより森でのことで、位階の高い先輩方が今日も森へ調査に行っているため人数が足りない。その分、事務作業が私たちに回ってきているので、さっさとやらないと定時で帰れなくなる。
「あ、ヒナタ先輩!」
「おう、ユノ。ハルト。やってるか」
「はい!」
あれからハルトは、ヒナタ先輩をかなり慕っているらしい。まあ、命を助けられればそうかもしれないが、それにしたって露骨じゃないだろうか。それを許してしまう、ヒナタ先輩の器のでかさよ。
それから、少し雑談をしてヒナタ先輩も仕事に戻っていく。
淡々と事務作業をこなしていく。仕事がひと段落して休憩を取る。
森が安全にならないと、外回りのクエストは回ってこない。
だけど安全になれば、この前のような私の憧れる冒険者のような真似事もできない。
そんな、複雑な感情に悩まされていた。