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15:第三章

「ふぅぅぅぅ」


 俺はザブンと湯船に浸かり、心の底から声を出す。


(ああ、最高だ……)


 この街には、公衆浴場がある。少しのお金を払うことで、公衆浴場を使うことができるため、こうしてたまに贅沢で浸かりにくる。


 時刻は昼間。まだ太陽が高い位置にあるときにここに来ると、今のようにほぼ貸し切り状態で使うことができる。俺の中でのプチ贅沢だ。


 しかし、風呂に入ると約1日分の食費を使用してしまうため、頻繁に来ることができない。


(せめて風呂代は稼ぐべきか……いや、それなら怠惰な日を一日伸ばしたほうが……)


 ここに来るたびにいつも悩む。風呂を取るか、一日休みを取るか。究極の選択だ。


「ヤダー」


ピンッ、と耳を傾ける。


 ここの公衆浴場は耳を澄ますことで、隣の女子風呂の声が聞こえてくる。声が聞こえてきた方をみると、そこは分厚く高い壁に阻まれている。


 俺は、かつてないほど真剣に耳を集中する。聞こえてくるのは女性の声。


「凄い綺麗な形ね」


「やだ、そんなに見ないでよ」


「それに柔らかい」


「ちょ、ちょっと!」


何が柔らかいんだ!


くっ、見たい!


 だけどあの厚く高い壁が、俺の野望を阻止する。


 昼間に公衆浴場に来ると、こういった場に遭遇することがある。専業主婦や若い女性が体を清めるために利用している時間を選んで、俺が来ているというのもある。


(やはり、風呂の日程を増やすべきか……)


 たまたまこんなエッチな状況に遭遇したことで、俺はまたしても本気で悩む。


 そんなことをしつつ体を洗い、風呂を満喫した俺は浴場を後にする。浴場で買った飲み物を飲みながら、休憩スペースでダラダラとする。


 しばらくすると、先ほどの姦しい声の女性陣が女子風呂から出てくる。


 一人は金髪に少しハツラツとした印象を受ける、恐らく胸を揉んだであろう美人な女性。


 一人は茶髪でおとなしめの印象を受ける大きな胸を持つ、グラマラスな女性だ。恐らく既婚。


(クッ! リスクを犯してでも覗くべきだったか!)


 俺は本気で悔しがる。その姦しい女性たちは、こちらの存在なんて気にかけず去っていく。


 はぁぁ、と少し大きめのため息を付く。どうにかして女子風呂を覗く方法はないかと思案をする。


 そして、思い出すのは師匠の言葉だ。


『お。誰か来たみたいだ』


『どうして分かるんですか?』


『風魔法で、目のようなものを置いてあるからね』


『目ですか?』


『はは、実際の目ではないよ。ただ目のようなものを置いて感知しているんだ。私たちの目は思ったよりも複雑でね、再現することは難しいんだ』


 そう、確か師匠は目を風魔法で再現していると言っていた。


 そして俺は、かつて理科の授業で人体について学んで、目の仕組みを理解している。


 俺の知識と師匠の魔法。それが合わされば完全な目を再現することも不可能ではない。そして俺のエロパワーは師匠の魔法に匹敵すると自負している。


「やるぞ……俺はやってやる!」


 俺は、かつてないほど気合が入っていた。

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