01:第一章
冒険者ギルド。
一般的に冒険者ギルドといえば、どういったイメージがあるだろうか。
無法者のたまり場?
無職が一発奮起する場所?
田舎の若者の憧れの職業?
俺も、最初はそんなイメージだった。だが、この世界の冒険者ギルドは少し毛色が違う。
冒険者ギルドは、完全に国に管理された組織団体だった。大きな街には立派な建物があり、職員がしっかりと働いている。
職員にはランクがあり、第一位から第十位までの位階がある。各位階にはある程度人数が決められており、第一位などは数人しかいないらしい。
位階によってできる仕事が決められており、位階十位だと街の雑務や薬草採取などになる。
位階九位なら、森の探索や街の巡回。位階八位なら、脅威度が少し高い魔物の討伐。といった具合に、出来る仕事が振り分けられている。
そして、ノルマをこなすことで冒険者ギルドの職員は、報酬として固定の給料をもらい、評価を上げて位階を上げていく。また時には、事務作業をなども行い、そしてまた時に国や民からあげられた依頼をこなす。
そう冒険者ギルドの職員は、日本で言う公務員なのだ。
ノルマをこなして位階があがると、段々と難易度の高いクエストを回されるようになる。そうして新しい位階でまたノルマをこなし、給料をもらう。なんと夢の無い職業なのだろうか。
ちなみにしっかりと入社試験があり、筆記と実技の試験がある。倍率はかなり高い、子供の憧れの職業なんだそうだ。世も末だな。
そうして、試験に合格したギルド員は最初から第九位を取得する。ノルマをこなしていくことで少しずつ位階をあげていくのだが、基本的にはギルド内は年功序列になるらしい。
まず、そもそも位階の低いギルド職員に危険なクエストは、当たり前だが回されない。日本だって新人の公務員に、何百万の案件なんて回ってこないし、回せないだろう。そうして回ってきた雑用のようなクエストを最初はこなしていくため、自然と上の位階の人間を抜くといった高位クエストは受けられず、下積み時代を何年も過ごす。
つまり上の位階の人間の機嫌によって、下の者の位階の評価が決まり、受けられるクエストが決まるため、自然と上の者を抜くといったことが起きず、基本年功序列で昇格していくのだ。
やっぱり夢がないな。
ちなみに、第十位は冒険者ギルドに属していない一般人が受けることが出来るクエストだ。いわゆる、日雇いバイトのような立場だ。
ギルド職員が出るまでもないような、ショボいクエストは建物の一階に張り出され、街の子供や仕事に就いていない人間などが請け負う。
冒険者は一攫千金を狙ってドラゴンを狩る、なんてことは出来ない。そういったことは、国がしっかり管理をしている。勝手に手を出したりしたら、なんなら犯罪として捕まることもあるそうだ。
転移をして仕事を少しこなしたあたりで、その仕組みを知り絶望した俺は、頑張ることを辞めた。だってこの国の歴史とか知らないし。筆記試験に、受かる気がしない。
今もこうしていい感じの木が生えて、木陰になっている公園のベンチでダラダラと過ごす。
「ふぁぁぁ……」
ぐうう~、と欠伸と同時に腹が鳴る。
(流石にお金が無くなってきたか……)
やる気がない。と言っても生きていくためには、働くしかない。俺は、日雇いバイトを受けるために、重い腰を上げ冒険者ギルドを目指す。
冒険者ギルドは国に管理されているだけあって、とても綺麗な建物だ。白亜の宮殿のような建物がデンッと構えている。初めて見た時は驚いたものだ。
大きなドアをくぐり建物に入ると、朝のラッシュが終わっており、一般に開放されているクエストボードには、しょっぱい仕事しか残っていない。
クエストボードの前でうーん、と悩みつつ、一つの紙を取る。その紙をもって、受付まで移動する。
「この仕事を頼む」
「はい、承りました」
受付に冒険者章を出し、クエストの確認をして、街の外に出る。冒険者ギルドは、時に魔物の解体なども行うため、街の出口に比較的近い位置に建てられていることが多い。
ちなみに今回、俺が受けたクエストは薬草採取。近くの森までいき薬草を採取する。この仕事のいい所は、上限がないところ。つまり頑張って採れば、採るだけお金が貰えるのだ。
まあ、買取金額は高くないが……
これで、買取が高かったら人気のクエストだろう。葉っぱを引き抜く作業なので腰も痛くなる。ちなみにこのクエストが何故、第十位に回されているかというと、草を取って位階が上がる、そんな異世界あるあるの都合のいい社会は存在しないからだ。
近くの森に徒歩で向かう。ちなみに、この森も冒険者ギルドが管理している。冒険者の初心者が手始めに受けた採取クエストで強い魔物に会って、ランクをあげる。そんな偶然すら起きない仕様になっている。
(さて、いい群青地でも見つかればいいんだが……)
食うために仕方ない。俺はいやいやと、森の中へ入っていく。