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「ん~……」
目を覚ますと、既に日が暮れ始めていた。
昨日は、新しい魔法を習得するために、珍しく夜遅くまで起きて練習に励んでしまった。
「ふわぁ……」
十分寝たはずなのに、まだ寝足りない感覚がある。
しかしその甲斐あって、俺の魔法は完成した。
(その名も、魔法の手!)
師匠のように、自由自在とはまではいかないが、俺の望む動きはしてくれる。
目の前に手を作る、そうしてお椀を包むように形作り、そのお椀を優しく揉む動作をする。
(――完璧だ!)
自分の才能に旋律する。
その魔法の手は、柔らかい物から、少し張りのあるものまで全てを包み込む理想の形。風の魔法のため透明なのもいい。魔法を発動している俺以外には感知は難しいだろう。
(よし、あの女性で試してみるか)
俺は、目の前を歩いていた女性に向かって魔法を発動する。
(さあ、夢を掴みに行け! 魔法の手よ!)
魔法は、問題なく発動する。
女性の胸に触れた魔法の手は、ふわりとそれを優しく包み込む。包まれたその胸には、その柔らかさを表現するように手の形が模られる。そう、それはまるで本当に胸を手が当たるような動きのようだった。
(あっ)
胸を風に触られたことで、女性が一歩下がる。
(しまった!)
俺はまだ、その魔法の手を完璧に操作することができない。それこそ揉む動作に力を入れ過ぎたため、一度発動し出現した手の位置を移動するには、もう一度魔法を行使する必要がある。
動け! 動いてくれ!
つまり届かない。胸まで。俺の願いは虚しく、魔法の手は虚しくなにもない空間を揉む。
(くっ、失敗だ……その後の、女性の動作も考慮しておくべきだった)
俺は、更なる改良を決意する。
「――! ―――!」
「ん?」
近くにいたメイドが、何事かと騒ぎ出す。俺は少し距離もあり、うまく聞き取れなかったが屋根の上にいた、明らかに怪しそうな男が指を指されていた。
周りの住人も、指さされた男を捕えるため動きだしている。
(まずい! バレたのか!?)
俺の風魔法に抜かりはなかったが、この世界には俺が知らないだけで魔法を検知する方法でもあるのかもしれない。
運よく近くに不審者っぽい人がいたため、俺だとバレずに済んだが、その人物の白が取れたら直ぐに俺の犯行だとバレてしまうかもしれない。
(撤退だ!)
俺は、そそくさといつも使っているベンチから逃げ出した。




