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「コハル、見てください! 似合いますか?」
「お似合いですよ、お嬢様」
お父様に駄々をこねて街へ出る許可を貰った。本当は、コハルと二人きりが良かったのだが、流石にそれは難しいと言われ、仕方なく警護の人間が一人ついている。
(それ以外にも、何人か街中に配置されてるみたいですけど)
さっきから、こちらをチラチラとみているあの少女なんかは、きっとそうだろう。緊張しているのか目が怖い。流石にこれ以上は我儘を言えないので、これで満足するしかない。
「ちょっとだけ、悪戯しちゃおうかしら」
「お嬢様……!」
「冗談よ、冗談」
街中を探索しながら楽しむ。こうしてみると住民や定員に笑顔が多い。改めて、この土地はいい土地だと実感する。
「あら……あちらは」
「あれは、家無しですね」
家無し。
正確に言うと家もなく、宿に泊まるお金もないような人を差していう差別用語だ。
情報として知ってはいたが、見るのは初めてだ。思ったよりも小綺麗な格好をしているのね。
その男性は公園のベンチに座りながら昼寝をしていた。確かにポカポカとした陽気が気持ちよく、ああして何も考えずに寝られたら、さぞや気持ちがいいだろう。
「家無しがいるのは、領地が裕福な証拠です。家がない状況でも、こうして生きていけるのですから」
「そうね」
これから向かう新しい土地では、家無しだけではなく、親を戦争で亡くした子供や、ならず者が集まっている土地などもあるらしい。そういった意味で我が領土は、まだマシなのほうなのかもしれない。
「私と結婚することで、ああいった人々が少しでも減るのね」
「そうですお嬢様。今回の婚約は、国のためにも成就させるべきなのです」
そんなことは、教育を受けているので分かっている。だけど、どうしても感情が追い付いてこないのだ。
私は本当に、この土地の人間に愛されているのだろうか。
そして嫁いだ先でも、同じように愛されるのだろうか。
(それは、私の今後の行動次第ね)
嫁ぐことが目的ではない。嫁いで、食糧事情を回復することが目的なのだ。そのためにも今、この土地の食料をよく観察して、持ち込める物は持ち込めるよう情報収集に努めよう。
「コハル! 私、あれを食べてみたいわ!」
私は、普段食べれない屋台を指さした。




