07
屋敷から見える街並みを見ながら、私は物思いにふける。
「はぁ……」
私は、この街を治める領主、ベイカー家の娘のリッカだ。この土地は、名前の通り小麦の生産地として有名で、古来よりパンなどの食品を作ることで国家に貢献をしてきた。
そんな私も、今年で成人を迎え、他家に嫁ぐ流れになる。領主の娘として生まれ幼い時から、他家に嫁ぐと言われ育てられてきた。だからこそこうして実際に婚姻が決まり、話が進んでいくことに対して文句はない。だが時々思うこともある。私はこの恵まれた環境下で、いったい何をしてきたのかと。やってきたことといえば、父に言われるがまま勉強や武芸に身を入れ鍛錬してきたこと。まだ私はこの街で何も残せていないと。
そして婚約者がもうすぐ、この領地へと来るのだ。そんな未来を思い、少しだけセンチな気分になる。マリッジブルーってやつだ。
(この街とも、もうすぐお別れ……)
普段は、稽古や習い事で外に出ることなどないが、いざ結婚で領地の外に出るとなると、少しだけ寂しい気持ちになる。
「ねぇ、コハル」
「なんでしょうか、お嬢様」
お付きのメイドに声をかける。メイドのコハルは、私が幼少期より一緒に過ごした専属のメイドだ。今回の結婚に伴い、私に付き添って婚約者の領地へ行くことになっている。
「街に出たいわ」
「いけません、お嬢様」
そうよね。分かっている。
今回の婚約相手が、敵国と近くにある領地のウォード家だ。ウォード家とベイカー家の婚約が実れば、ウォード家は食料に対する憂いが少なくなる。今回の婚約には、そういった意図も含まれる。私一人の意見で変えられるものではない。
ただその婚約を良しとしないのが、敵国である。
(今、屋敷より外に出るのは危険)
敵国からの刺客が、入り込んでいる可能性がある。そのせいで普段あまり外に出ないのだが、更に家に閉じこもるような生活をしている。
それがもう、耐えられなかった。
「なんとかならないかしら」
「なんともなりません」
もう、わからず屋のコハル。
長年の付き合いなのだから、私の気持ちだってわかっているはずなのに。
ジーっと彼女を見つめる。
「……はぁ。旦那様の許可がないと無理です」
「お父様に聞いてくるわ!」
私は、ウキウキしながら部屋を出た。




