表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/78

07

 屋敷から見える街並みを見ながら、私は物思いにふける。


「はぁ……」


 私は、この街を治める領主、ベイカー家の娘のリッカだ。この土地は、名前の通り小麦の生産地として有名で、古来よりパンなどの食品を作ることで国家に貢献をしてきた。


 そんな私も、今年で成人を迎え、他家に嫁ぐ流れになる。領主の娘として生まれ幼い時から、他家に嫁ぐと言われ育てられてきた。だからこそこうして実際に婚姻が決まり、話が進んでいくことに対して文句はない。だが時々思うこともある。私はこの恵まれた環境下で、いったい何をしてきたのかと。やってきたことといえば、父に言われるがまま勉強や武芸に身を入れ鍛錬してきたこと。まだ私はこの街で何も残せていないと。


 そして婚約者がもうすぐ、この領地へと来るのだ。そんな未来を思い、少しだけセンチな気分になる。マリッジブルーってやつだ。


(この街とも、もうすぐお別れ……)


 普段は、稽古や習い事で外に出ることなどないが、いざ結婚で領地の外に出るとなると、少しだけ寂しい気持ちになる。


「ねぇ、コハル」


「なんでしょうか、お嬢様」


 お付きのメイドに声をかける。メイドのコハルは、私が幼少期より一緒に過ごした専属のメイドだ。今回の結婚に伴い、私に付き添って婚約者の領地へ行くことになっている。


「街に出たいわ」


「いけません、お嬢様」


そうよね。分かっている。


 今回の婚約相手が、敵国と近くにある領地のウォード家だ。ウォード家とベイカー家の婚約が実れば、ウォード家は食料に対する憂いが少なくなる。今回の婚約には、そういった意図も含まれる。私一人の意見で変えられるものではない。


 ただその婚約を良しとしないのが、敵国である。


(今、屋敷より外に出るのは危険)


 敵国からの刺客が、入り込んでいる可能性がある。そのせいで普段あまり外に出ないのだが、更に家に閉じこもるような生活をしている。


 それがもう、耐えられなかった。


「なんとかならないかしら」


「なんともなりません」


もう、わからず屋のコハル。


 長年の付き合いなのだから、私の気持ちだってわかっているはずなのに。


 ジーっと彼女を見つめる。


「……はぁ。旦那様の許可がないと無理です」


「お父様に聞いてくるわ!」


 私は、ウキウキしながら部屋を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ