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「シャーリーちゃんはまだ自分の属性を知らないわよね? どの魔法に適性があるのか試してみましょう」
マイラはそう言うとケースを開く。そこには赤、青、青緑、茶、黒、透明の六つの石が並んでいた。これは魔力測定用の道具だ。
まだ自分の属性のわからない幼い子供には、あの六つの魔法石を順番に触れさせ、一番合う属性は何なのか調べることになっている。ルーサ王国では広く流通している道具だ。
しかし、マイラはわざわざこんなものを持って来たのか。はじめから私に魔法を教えるつもりだったのだろうか。
不思議に思いつつも、私は無邪気な子供を装って感心した声を出す。
「わぁ、きれいな石ね! これで属性がわかるの?」
「ええ、そうよ。これに一つ一つ触れていって、一番体に馴染むのが自分の属性ということになるの。基本的に人が持つ属性は一つだけど、時折複数の属性を持つ人間も現れるわ。まぁ、これはシャーリーちゃんに関係ないだろうけれど」
マイラはそう言ってふふっと笑った。微妙に言葉にトゲがある。それには気づかないふりで、笑顔で尋ねた。
「そうなのね! ただ石に触ればいいの?」
「ええ、まずはこの赤い石に触ってみましょう」
マイラはそう言って赤い石を指さす。これに反応すれば、私は火属性ということになる。
触れようとしたところで、ふと考えた。この幼女の体は、何の属性を持っているのだろうか。
考えてみれば幼女の姿になってからは魔法を使ったことがないから、自分でも属性がわからない。
グレースだった頃は、光魔法と闇魔法の両方の資質を持っていた。これと同じ道具で調べたこともあるけれど、ほかの属性は持っていなかった。
今も同じ属性なのかしら。それとも、体が変わると別の属性になるのかしら。
そんなことを考えながら、何気なく石に触れる。その瞬間、魔法石に触れた部分から強い光が溢れ、体の中をぶわっと気のようなものが巡った。
この感覚は覚えている。
自分に適合した属性の魔法石に触れると、こんな風に体が反応するのだ。今の感覚からすると、この幼女の体は相当強い火の属性を持っていることになる。
そうか、この幼女は火属性だったのか。
はちみつ色の髪に緑色の目をしているから、てっきり土属性みたいな植物に関係しそうな属性だと思ったけれど、外見にはよらないらしい。
私は意外な思いで魔法石から手を離し、マイラを見上げた。マイラは目を見開いて驚いた顔をしている。
「マイラお姉さん! 今、光ったのを見た? 私、火属性だったのね!」
「いいえ、光なんて見えなかったわ。シャーリーちゃんは多分、火属性ではないと思うの」
マイラはきっぱりと言い切った。私は首を傾げる。
「え? でも確かに光って……。それに、体の中にぶわって何かが巡る感覚があったよ?」
「それは気のせいよ。ほかの属性も調べてみましょう。ほら、次は青い石に触って」
マイラは張り付けたような笑みを浮かべ、強引に青い石に触れさせようとする。腑に落ちないながらも私は言う通りにした。
すると、どうしたことだろう。青い石に触れても、先ほどと同じような感覚があったのだ。
手元は強く光り、体の中を気が巡る。シャーリーには二つの属性があったようだ。
今度こそマイラを見上げ、「反応したわ!」と声を上げる。しかし、マイラは神妙な顔で首を振る。
「いいえ、光っているようには見えなかったわ。ほかの石も試しましょう」
「……え? うん……」
なんとなく彼女の意図がわかってきた。私は言われるままにほかの石に触れる。