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1-8

「……あの女、ほんっとうにムカつくわ……」


 私はベッドの上でぎりぎり歯ぎしりをした。あの時のマイラの笑みを思い出すと、怒りで頭がどうにかなりそうになる。


「待ってなさいよ、マイラ。地獄に落としてやるから」


 私は拳を握りしめ、低い声で呟いた。



***



 それから三日後、早速マイラがやって来た。


 マイラは明るい黄色のミニドレスに身を包み、レースのショールを羽織っている。履いているのは華奢なヒールだし、子守をするには明らかに向かない服装だ。


 私はマイラの目的はヴィンセントだという確信を強めた。


「ヴィンセント様、お招きありがとうございます! わぁ、エヴァンズ公爵邸ってこんなに広いんですね」


 マイラはお屋敷の中を目をキラキラさせて見まわしながら言う。


 一応私の世話をしに来たはずなのに、こちらには目も向けない。しばらくお屋敷を見渡したマイラはようやく思い出したように私のほうを向き、「こんにちは、シャーリーちゃん」と笑った。



「マイラ殿。これから私は仕事で席を外すから、シャーリーを見ておいてもらえるか」


「えっ、ヴィンセント様は一緒にいてくださらないんですか?」


「ああ。君は私が忙しくならないように来てくれたんだろう?」


 ヴィンセントの言葉にマイラは口ごもる。それから引きつった笑みを浮かべて私に言った。


「わかりましたわ。シャーリーちゃん、何をして遊びましょうか」


「私、お人形遊びがしたいわ!」


 私ははしゃぐ子供のふりをしてマイラを自分の部屋に連れて行った。ちらりとヴィンセントのほうを見ると、彼は私達をじっと見て、何とも複雑そうな顔をしていた。



 私の部屋はとても広い。


 平民の家だったら丸ごと一つ入るんじゃないかってくらいの大きさで、ベッドと机の置いてあるメインの部屋に加え、シャワールームや小さなキッチンが別に用意されている。この部屋だけで生活できてしまうんじゃないかっていう部屋だ。


 ヴィンセントはこんなに大きな部屋を用意しておきながら、「狭かったらいつでも新しい部屋を用意してあげるからね」と笑うのだから私は何とも言えない気持ちになる。


 部屋に連れて来られたマイラも目を丸くしていた。


「あなた、こんないい部屋に住んでいるのね」


「うん! ヴィンセント様が用意してくれたの!」


 元気にそう言ったら、マイラの顔がわずかに引きつった。どこの子だかも分からない子供にはもったいないとでも思っているのかしら。


「ねぇ、マイラお姉さん。早くお人形遊びをしましょうよ」


「ええ、そうね……。けれど、シャリーちゃん。魔法に興味がない?」


 マイラはにっこり笑って言った。私は言葉の意図がわからず首を傾げる。


「魔法?」


「そう、魔法。体から水の玉を出したり、炎を出したりできるのよ。たとえば、私には光魔法の資質があるから、人のけがを治すことができるの」


 マイラはそう説明する。


 ルーサ王国で十九年生きてきた私なので、魔法についてはもちろん知っている。それどころか、グレース時代は聖魔法と闇魔法を使い分けて散々使いこなして来た。


 私は少し考えてから、無知な子供を演じることにした。


「すごぉい! そんなことができるのね! 私にも魔法が使えるかな?」


「どうかしら? 試してみましょうか。お人形遊びより魔法の練習のほうがきっと楽しいわよ」


 マイラはそう言うと、鞄から横長のケースを取り出した。

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