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それから気になっていた、どうして私は処刑後に小さな女の子の姿になったのか、この少女はそもそも誰なのかということだけれど、シャーリーは私の理想が生み出した魔法なんじゃないかと思っている。
それというのも、私は最近になって処刑の日とその前夜の記憶を思い出したのだ。
冷たい牢屋に閉じ込められた私は、苦々しく十九年の人生を振り返っていた。
つんけんしているからか天邪鬼だからか妙に両親に好かれなかった私は、昔からお気に入りの絵本の中に出てくるはちみつ色の髪の少女に憧れていた。その子は素直で、明るくて、可愛くて、誰からも愛される子だったから。
私があの少女のようだったら、両親は私一人を神殿に送ることはなかったんじゃないか、神殿の人たちは私を疑わなかったんじゃないか、国民たちも処刑に反対してくれたんじゃないかなんて、卑屈な考えばかりが頭をよぎった。
処刑当日、首を押さえつけられた私の頭には、あの絵本の少女の姿が薄っすらと浮かんでいた。
目の前の国民たちに悪態をつきながらも、心のどこかにはもっと私が違う風だったらよかったのにという思いがあったのだ。
首を斬り落とされる瞬間、あの時確かに今まで感じたことのない勢いで魔力が巡る感覚があった。自分の意思とは無関係に魔法が発動する感覚も。
おそらく、私は死の直前、最後の魔力で自分を幼い子供の姿に変えたのだ。
私はヴィンセントの部屋の本棚の前に立ち、彼が用意した絵本の一つを手に取る。
ヴィンセントが私に似ているからと買ってきた本。この前は目を背けてしまったけれど、今は真っ直ぐに表紙の真ん中で微笑む少女を見られる。
「シャーリー、絵本を読んでいたのかい?」
「あっ、ヴィンセント様」
絵本をじっと眺めていると、後ろからヴィンセントがやって来た。ヴィンセントはかがんで絵本の表紙を覗き込む。
「やっぱりシャーリーに似てるよなぁ。この女の子」
「当然です。私のモデルなんですから」
「モデル?」
ヴィンセントは不思議そうに私を見る。私はそれには答えず、ヴィンセントに両手を伸ばした。
「抱っこしてください、ヴィンセント様っ」
「あはは、いいよ。シャーリーは甘えん坊だなぁ」
ヴィンセントは眉尻を下げて、嬉しそうに私を抱え上げる。
正体がバレて以降も、やっぱり姿が幼女だと幼女にしか思えないのか、ヴィンセントは私を子ども扱いしている。そして私もそれをいいことに、今まで通りかわい子ぶって甘えている。
ヴィンセントのほうはたまに正気に返って慌てたり顔を赤くしたりしているけど。
「ヴィンセント様、聞きたいことがあります」
「なんだい? シャーリー」
「シャーリーとグレース、どっちのほうが好きですか?」
「えっ」
尋ねると、ヴィンセントは難しい顔で固まってしまった。それから何やらぶつぶつ呟きだす。
「シャーリーはとても愛らしいし、妹みたいで愛おしい。しかし、グレース様の気高さは何ものにも代えられず私を照らし出してくれた……どっち……どっちなんて言われても、私には選べない……!」
「ちょっと、そこまで深刻に悩まなくていいですよ!」
私は考え込んでしまったヴィンセントの頬をつねって正気に戻させる。ヴィンセントははっとしたようにこちらを見た。
「そうだね、悩むことはないね。どっちも好きだよ。シャーリーもグレース様も、選べないくらい好きだ」
「えへへ、私もヴィンセント様が好きですよ」
聞きたかった言葉を聞けたので、私は満足してヴィンセントの首に腕を回す。ヴィンセントの悶える声が聞こえてきた。
今はあの絵本の少女を見ていても、以前のように心がざわつかない。
素直で愛らしい少女もいいけれど、やっぱり人に媚びない、気高くて美しいグレースも最高だと思うからだ。
「君は本当に可愛いな、世界一だよ」
ヴィンセントはお決まりの頬ずりをしながら、柔らかい声で言う。
私はすっかり満足して、ヴィンセントの大きな腕に身を委ねていた。
終わり
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