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稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています  作者: 水谷繭
1.悪女は幼女になりました

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1-7

***


 公爵邸に戻ると、たくさんの今日購入した荷物に埋もれるようにベッドの上に転がる。目を瞑るとグレース時代のことが浮かんでくる。


 グレースは神殿で聖女として働いていた。


 清廉で優しい聖女の顔は表の姿に過ぎず、グレースは裏で犯罪組織と組んで神殿の情報を流したり、隣国の組織と国民を奴隷にして金儲けをする計画を推し進めたりしていた。


 表では黒の質素なシスター服に身を包み、裏では派手なドレスを着て闇組織の人間と遊び回るグレースは、悪女そのものだった。


 自室で一人、悪事で溜め込んだお金を見つめながらグレースは口の端を上げる。


『ほんとみんな馬鹿ばっかり。簡単に騙されるんだから』


 グレースは神殿の者たちには決して裏の顔を悟らせないようにしていたが、一時期からグレースを慕ってどこへ行くにも付きまとうようになった少女にはしだいに警戒心を解くようになった。それがマイラだ。


「グレース様は本当に美しくて賢くて素敵だわ。私、グレース様のようになりたいんです」


 夢見るような眼差しで言われ、愚かにもグレースは気をよくした。


 マイラはどこへでもグレースの後をついて回り、召使いのように身の回りの世話をし、何かというと大げさに褒めたたえた。


「グレース様って本当に賢くて憧れるわ。それに、ほかのシスターたちと違って自分を持っているというか……芯が強いように思うんです」


 マイラの言葉はグレースの自尊心をくすぐった。


 これがほかの者たちからしょっちゅうかけられるような、お優しいとか、女神のようだとか言う誉め言葉ならそこまで響かなかったのかもしれない。


 けれど、マイラの言葉はグレースの一番言われたい言葉をうまくついていた。



 愚かにもグレースはしだいにマイラを信用するようになっていった。そして部屋に入れることを許してしまったのだ。


 時間はわずか一時間ほど。


 その間に彼女から目を離したのはお茶を取りに行った一度だけ。

 取りに行くといっても、お茶は部屋の中で淹れられるようになっていたから、わずか数分背中を向けただけだ。


 おそらく最初から私の弱みを探る気で来ていたのだろう。


 マイラは目ざとく本棚の隙間に挟まっていた犯罪組織とのやり取りの手紙を見つけ出し、内容を記憶したようだ。


 マイラに手紙を見られたことも、彼女が私の部屋を出た後で手紙の内容を神官様に告げ口したこともまるで気づかなかった私は、ある日隣国で組織と取引を終えた後、のこのこ神殿に帰ってきた。


 そこで待っていたのは、今まで見たこともないような神官様やシスターたちの冷たい視線だった。


 違和感に気づいたときにはもう遅く、逃げ道は塞がれ、私は控えていた兵士たちに捕らえられた。



 投獄されてからの日々は地獄だった。


 罵声を浴び、暴力を振るわれて。食事は一日に一杯の水とカビかけたパン一つしか与えられず、夜になれば牢屋の冷たい床で擦り切れた毛布を被って眠る。


 痛みと苦しみで意識が朦朧とする。屈辱でどうにかなりそうだった。


 今まで私を聖女だと称えていた者たちは、手のひらを返して私を罵った。


 屈辱にまみれたまま私は断頭台の前に連れて行かれ、そのまま首を落とされた。


 断頭台に上がらされた時、群衆の中でこちらを見てにやつくマイラの顔が確かに見えた。


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