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「あっ、そうですわ! 私、森で初めて会った日のことを説明できます! ヴィンセント様は、あの日森で疲れきって眠っていた私に声をかけてくれましたね。私のことを妖精なんて呼ぶから、変な人だなって思いました。従者さんは親を探すべきではないかと止めたのに、あなたはそのまま私をお屋敷に連れ帰って」
「え……?」
「私がマイラに家庭教師を頼んだときは随分やきもちを焼いてましたよね? 魔法なら自分がいつでも教えてあげるのにと公爵家の仕事を放り出そうとするので、私は慌てて止めました」
「グレース様、どうしてあなたがそれを……」
「私がシャーリーだからですってば! そうだ、王都で私が処刑された広場のそばに行ったとき、そこにいた人たちがあんな悪女死んでよかったって話していたのを覚えていますか? 私、あの時ヴィンセント様が否定してくれてとても嬉しかったんです」
どうにか信じてもらおうと、思いつくままに思い出を話す。
ヴィンセントの顔に驚きの色が浮かぶのがわかった。しかし、私を凝視する彼は、まだ信じ切ってはいない様子だ。
私はもどかしくて堪らなくなった。どうしたら信じてもらえるのだろう。
今、この瞬間にシャーリーに戻れたらいいのに。そうしたらヴィンセントを安心させてあげられるのに……。
そう願った瞬間、体の中を魔力が巡る感覚が走った。先ほど広場で感じたのと同じような感覚。衝撃に思わずへたり込む。
「グレース様!? 大丈夫ですか!?」
ヴィンセントが慌てた様子で、しゃがみ込んだ私の肩に触れる。ひどい眩暈に襲われた私は返事をすることもできなかった。
「い……っ」
再び強い衝撃に襲われ、耐えきれなくなって床に顔を伏せた。頭も、手足も、お腹も、どこもかしこも電流が走るように痛い。
「……シャ……シャーリー?」
「え?」
ようやく痛みが治まってきて顔を上げると、目を大きく見開いたヴィンセントと目があった。
無意識に自分の手に目を遣ると、そこには小さくふっくらした子供の手がある。視界の端に見える髪は、灰色からはちみつ色に変わっていた。
「ほ……本当にシャーリーがグレース様なのか……?」
ヴィンセントは私をじっと見つめたまま、震える声で言う。
私は大きくうなずいた。
「はい! 私がシャーリーですわ!」
元気にそう言った私を、ヴィンセントは驚愕の表情で見つめていた。




