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「あの、公爵様、私は事情もよく知らないまま無責任なことを言ったようで……申し訳ありません」
「なぜ謝るのですか? あなたのあの時の言葉は、ずっと私を支えてくれていたんです。あの時神殿であなたに会えて本当によかったと、何度神に感謝したかわかりません。あなたが処刑されたと聞いたときはまるで世界が終わったような気持ちでした……」
ヴィンセントは悲しげに顔を俯けて言う。
一方で私は、適当に、しかも結構失礼な決めつけをして言ったことでここまで感謝されて、いたたまれない気持ちだった。
まさかあの時の言葉がそこまで重く受け止められているなんて、思いもしなかったのだ。
私が微妙な罪悪感に苛まれていると、ヴィンセントに突然ぎゅっと手をつかまれた。
「あの……?」
「グレース様、あなたが生きてらして私は本当に嬉しいのです。どうか、ずっとこの屋敷にいてくださいませんか。もう二度とグレース様がひどい目に遭うことがないように、私がずっとお守りしますから」
「え、えぇ……?」
ヴィンセントは両手で私の手を握りしめ、真剣な目でこちらを見つめる。
私はすっかり困ってしまった。
ヴィンセントは幼女のシャーリーが好きだとばかり思っていたのに、まさかグレースのほうを好きだと言われるなんて。というか、今そんなことを言われても本当に困る。
私はどうしてグレースの姿に戻ったのかもまだ何もわからない状態なのに。
一旦どこかで一人になってじっくり自分の状況を整理したいのに。
ヴィンセントに切なげな目で見つめられながら、どうやってこの場を切り抜けようか頭を悩ませる。
本当にどうしよう。早く切り抜けないと、シャーリーが屋敷に戻る時間になって不審がられてしまうのに……。
私がぐるぐる考えていると、突然扉の向こうからノックの音が鳴り響いた。
「ヴィンセント様! 少しよろしいでしょうか!!」
やけに切羽詰まった声だった。この声は、よくシャーリーの面倒を見てくれる年若いメイドだ。
「……どうしたんだろう、客人が来ていることは伝えてあるはずなのに……」
ヴィンセントはぎゅっと掴んでいた私の手を離すと、扉のほうに目を向ける。
「グレース様、申し訳ありません。急用かもしれませんから、メイドを中へ通していいでしょうか」
「はい、構いません。私は顔を隠していますから大丈夫です」
私はそう言ってストールを手に取り、フードのように頭から被った。これで顔をうつむけておけば、グレースだとわからないはずだ。
ヴィンセントは私にもう一度謝ると、扉のほうに駆けて行った。私は少しほっとしながら彼が用件を聞き終わるのを待つ。
しかし、メイドから飛び出てきた言葉に、自分の状況を思い知った。
「ヴィンセント様、朝にお屋敷を出たシャーロット様がまだ神殿に来ていないようなんです! シャーロット様と仲の良い子供のシスターに聞いたら、今日は来る約束をしていないと言っていたそうで……!」
「なんだって!?」
メイドとヴィンセントは血相を変えて話し始めた。
ソファで身を隠して様子をうかがっていた私は、二人に劣らず青ざめる。
(ど……どうしてもう神殿に行っていないことがバレてるの……。まだ帰ると約束した時間には二時間以上あるはずなのに……)
私がおろおろと話を聞いていると、メイドが焦った声で話しだした。




