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さすがに申し訳なくなった。確かに、思い返せばヴィンセントがシャーリーに向けていたのは、純粋な愛情だけだったように思う。
ただ、彼は時々私をじっとやけに熱のこもった目で見つめて来るので、勘違いしてしまったのだ。そう言う時のヴィンセントはまるで、私を通してほかの何かを見ているようで……。
……ほかの?
「グレース様」
「ひゃっ」
考え込んでいると、突然肩を掴まれてヴィンセントにじっと顔を覗き込まれた。
「こ、公爵様、失礼なことを申し上げてすみません……」
「グレース様、信じてください。私は決して幼女趣味などではありません」
「そうですよね、私が間違っていました。失礼を……」
「私が好きなのはあなたです」
ヴィンセントは私の目をじっと見つめながら言う。私は驚いて彼を見返した。
「私……?」
「私はずっとあなたをお慕いしておりました。あなたが処刑されたと知っても、ずっと忘れられませんでした」
「ど、どうして私なのですか。私、さっきも言った通り、公爵様と会った記憶がないのですが……」
戸惑いながら尋ねると、ヴィンセントは目を伏せる。それから躊躇いがちに口を開いた。
「以前、早朝の教会に黒いマントを着た男が礼拝に来たのを覚えていますか」
「黒いマントの……?」
なんとか記憶を辿って思い出そうとする。
早朝、黒いマントの男……。ぼんやりと肌寒い教会の記憶が頭に浮かぶ。しかし……。
「……寒い雪の日の、まだ礼拝の時間が始まる前に、やたら思いつめた顔をした黒いマントの男性がやって来たような気がします。確か、四年くらい前だったかしら……」
「!! そう、それです! 覚えていてくださったのですね!!」
私が記憶を辿りながら言うと、ヴィンセントの表情がぱっと輝いた。私は困惑して彼を見る。
「でも、あの人は大分、公爵様と外見が違ったと思いますが……」
「人に見つかりたくなくて変装していたんです。ああ、嬉しいな。あなたに覚えていてもらえただなんて……」
ロリコン疑惑をかけられたせいで落ち込んでいたヴィンセントは、今はすっかり上機嫌だ。
彼の嬉しげな顔を見ても、私は戸惑うことしかできなかった。
だって当時の私は、どう考えても大したことを言ってないし、むしろ失礼なことしか言っていない気がするから。
ヴィンセントは私の困惑に気づかず、ただ嬉しそうにするばかりだった。




