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「お願いします、ヴィンセント様!」
「いや、さっきから言ってる通りいらないと」
「ヴィンセント様! 私、このお姉さんに来て欲しいです!」
抱きかかえられたまま上を見上げながら言うと、ヴィンセントは目を丸くした。マイラのほうもぽかんとした顔でこちらを見ている。私はさらに言い募った。
「私、このマイラお姉さんに来て欲しいです! シスター様とおうちで遊べたら楽しそうだわ」
私の言葉に驚いていたマイラの顔がにんまり歪むのがわかった。馬鹿な子供が騙されたと思ったのだろうか。
対するヴィンセントは困り顔で私の顔を覗き込む。
「だがな、シャーリー……」
「ヴィンセント様、シャーリーのお願い聞いてくれないんですか?」
目を潤ませて悲しげに言うと、ヴィンセント様はうっと言葉に詰まった。
それからしばらくの沈黙のあと、納得のいかなそうな声で言う。
「……わかった。マイラ殿、時々うちにきてシャーリーの面倒を見てくれるか」
「ええ、お任せください! ヴィンセント様!」
ヴィンセントに頼まれたマイラは嬉しそうに言う。そうして作り笑顔だとばればれの笑みで、私に向かって「よろしくね、シャーリーちゃん」と言う。
私も笑顔を返しておいた。
マイラのことは大嫌いだ。同じ空間で呼吸をするのも苦痛なくらい。
それでもあえて世話係になるように仕向けたのは、おもしろそうだと思ったから。
マイラは私がグレースであることも、本当は精神年齢が十九歳であることも気づいていない。きっと考えなしの子供だと思っているだろう。
油断しているマイラならきっと簡単に出し抜ける。
図々しくも私に近づこうとしたこと、後悔するがいいわ。
***
マイラと別れた後、ヴィンセントは少し不服そうだった。
「ヴィンセント様、どうしたんですか? 怒っていますか?」
「……怒っているわけではない。ただ、納得がいかないだけだ」
「マイラお姉さんのことですか?」
「ああ、シャーリーが彼女を家に呼びたがるなんて……。私や公爵家の者だけでは不満なのか?」
エヴァンズ公爵家の現当主であり二十四歳のヴィンセントは、幼子の私の顔を覗き込んで、拗ねたように言う。なんとも大人げない。
「ヴィンセント様も公爵家の人も大好きです! でも、シスター様と遊んでみたかったんです」
「ううむ、けれどシスターならあの人でなくても……」
「あの人がいいです!」
ヴィンセントは不服そうな顔ながらも、シャーリーがそこまで言うならとうなずいた。
「ありがとうございます、ヴィンセント様! シャーリーは嬉しいです」
ご機嫌取りに首に腕を巻き付けて頬ずりしたら、ヴィンセントは途端に機嫌がよくなった。仕方ないな、なんて言いながら私の頭を撫でる。ロリコンは扱いやすくて助かる。
「ヴィンセント様、次はおもちゃ屋さんに行きたいです!」
「こんなに買い物したのにか? シャーリーは仕方ない子だな。じゃあ、町で一番大きなおもちゃ屋さんに行こう」
ヴィンセントはにこにこ顔で私を見ると、おもちゃ屋さんのほうまで歩きだした。
結局その日はおもちゃ屋さんでさらに二箱分のおもちゃを買ってもらい、くたくたになって公爵邸へ戻った。