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「今、王都ではどんな服が流行っているのかな? 六歳くらいの小さな女の子にあげたいんだ。金色の髪に黄緑色の目をした、ものすごく可愛い女の子なんだけど」
「まぁ、それならこちらのブラウスはいかがでしょう? 今、大きな襟の子供服が流行っているんですよ。貴族の学園の制服みたいで可愛いって」
「おお、いいな。シャーリーに似合いそうだ!」
前方に見つけたヴィンセントは、洋服屋の店員さんとのん気な顔で話している。
あまりにも自然過ぎて、道行く人は公爵がここにいることに全く気付いていないようだった。店員さんも多分自分が誰と話しているのかわかっていないだろう。
ヴィンセントは店員さんにたくさん洋服を持ってきてもらい、楽しげに服を選んでいる。
このまま先へ進むわけにはいかない。せっかくここまで歩いてきたけれど、引き返そう。
そう思って背を向けようとしたとき、ヴィンセントがふいに顔を上げた。ヴィンセントは何気ない様子で辺りを見回し、私のいる場所で視線を止める。
ヴィンセントが大きく目を見開くのがわかった。
(気づかれた……?)
私は慌ててヴィンセントに背を向けて走り出す。もう目立たないように歩く余裕なんてなかった。
ヴィンセントから少しでも離れるために、必死に足を動かす。
後ろからヴィンセントが慌てた声で店員さんに何か言うのが聞こえてきた。駆け足の足音が近づいてくる。
「……待ってくれ!!」
後ろからヴィンセントの呼ぶ声が聞こえる。私は振り返らずに必死で走った。
道行く人々がこちらに注目しているのがわかる。私はどうにか髪で顔を隠した。
(なんでよりによってヴィンセントに見つかるのよ……! ていうか大声出すのやめなさいよ、目立つじゃない!)
ヴィンセントに苛立ちながら、どうにか人通りのない道を目指して走り続ける。しかし、それほど離れないうちにあっけなく追い付かれてしまった。
後ろから腕を掴まれ、観念して足を止める。
「あなたは……」
ヴィンセントの声は震えていた。そっと顔を上げると、彼の顔には今まで見たこともないほど動揺の色が浮かんでいる。私は仕方なく言った。
「……私に何か用でしょうか。用があるなら別の場所でお願いできますか。ここだと目立つので」
「あ、ああ! 申し訳ありません。目立つのはまずいですよね。よろしければ、向こうに留めてある馬車の中で話せないでしょうか」
「……構いません」
ヴィンセントは私が人目を避けていることを察したようだ。
グレースの姿でヴィンセントと二人にはなりたくなかったが、このままここにいるよりはましかと思い、彼の提案にうなずいた。
私はヴィンセントに連れられ、馬車の中に乗り込んだ。




