10-3
そのとき、突然体の中を鋭い痛みが駆け抜けた。
思わず地面にしゃがみ込む。一瞬の痛みが過ぎ去っても、体中を鈍い痛みが這っていた。
「い、痛い……一体なんなの……」
肩で息をしながらなんとか立ち上がる。その時、視界の端で揺れる自分の髪の毛が目に入り、私は目を見開いた。
シャーリーのはちみつ色の髪の毛が、鈍い灰色の髪に変わっているのだ。
その色には見覚えがあった。十九年間、よく見慣れた色だ。
「な、なによこれ……まるでグレースの髪……」
手に取って見てみても、グレースの髪の色そっくりだった。一体どういうことだろう。なぜ突然髪色が変わったのか。ちっともわからない。
するとその時、様子のおかしい子供がいることに気が付いたのか、向こうから年配の女の人が近づいてきた。
今、人に見つかるのはまずいと直感し、逃げるようにその場を去る。
広場を走り抜ける間もずっと眩暈が収まらなかった。それに体の節々が痛い。わけがわからないまま、必死に走り続ける。
ようやく人通りのない通りまで入り、建物の影に隠れられそうな場所を見つけた。急いでそこへ逃げ込む。もう体は限界だった。しゃがみ込んで荒い息をする。
そのとき、一際強い痛みが全身を駆け抜けた。
私は地面に手をついて、必死に痛みが過ぎ去るのを待つ。視界はぐらぐら揺れていた。
ひたすら耐えていると、ようやく痛みが少し収まってきた。私はゆっくり立ち上がる。
しかし、明らかに違和感があった。目線がやけに高いのだ。
手を見ると、そこにはもうすっかり見慣れた小さな手ではなく、明らかに成人女性のものらしい手がある。
(何よこれ、まさか……)
私は青ざめて建物の影から出る。そして人がいないのを確認すると、そっと窓ガラスを覗き込んだ。
そこに映っていたのは、まぎれもなく私の元の姿……グレース・シュルマンの姿だった。
「なんで……」
私は頬に手を当てて、呆然と窓を見つめる。グレースは確かに死んだはずなのに。自分に起こっていることが全く理解できなかった。
ふらふらとその場を立ち去る。
わけがわからないけれど、とにかくこの姿でこの街にいるのはまずい。処刑されたはずのグレースがまだ生きていると知られれば、どんな目に遭うかわからない。
私は人に見つからないように隠れながら、どうにかこの街から離れようと歩き出した。
しかし都合の悪いことに、今までいた通りの先は、人通りの多い道ばかりだった。
ずっと隠れていようかとも思ったが、人通りのない場所とはいえ、あまり長く居れば建物の中から人が出て来るかもしれない。仕方なく隠れながら歩くことを選んだ。
うつむいてできるだけ髪で顔を隠し、人に見つからないように進んでいく。道行く人々はこちらに注意を払う様子はなかった。
意外と大丈夫かもしれない。すれ違う人の顔なんて、みんなそれほど気にしていないのかも。
そう考えて少しだけ安心した時、前方に今一番会いたくない人物を見つけてしまった。




