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「おかえり、シャーリー。神殿は楽しかったか?」
お屋敷に戻ると、すぐさまヴィンセントが出迎えてくれた。神殿からの帰り道ずっと険しい顔をしていた私は、慌てて笑顔を作る。
「楽しかったです! ヘレンたちといっぱいお話ししました!」
「うんうん。それはよかった。シャーリー、明日は私と買い物に行かないか? 神殿に行くのも良いけれど、そろそろ新しいお洋服やおもちゃも欲しいだろ?」
「ええと……」
ヴィンセントににこにこしながら聞かれ、私は頭を悩ませた。
お屋敷に戻ってからもしょっちゅう神殿に通っていたので、久しぶりにご機嫌取りにヴィンセントと出かけてあげたほうがいいのかもしれない。
しかし、私の頭からは先ほど聞いたグレースの話が離れず、とても無邪気な子供を装って買い物なんてできそうになかった。
「ごめんなさい、ヴィンセント様。私、明日も神殿に行くと約束しちゃったんです。お買い物は今度連れて行ってください」
「そうかぁ、それなら仕方ないな」
ヴィンセントは残念そうに言う。
神殿に行く約束をしたというのは嘘だ。本当は別に行きたいところがある。
私は自分が処刑された場所を……あの広場をもう一度見に行きたかった。
***
翌日、私はヴィンセントに神殿に行くと嘘を吐いてお屋敷を出た。
嫌な緊張感に苛まれながら広場を目指す。
以前、ヴィンセントと初めて王都に来た日にもあの広場を通りかかった。あの時は不快感に耐えきれずにすぐに立ち去ってしまったけれど、今度はちゃんと見ておきたい。
グレースが死んだ後、何があったのかを知りたかった。
ちゃんと見ようと決意してやって来たと言うのに、実際広場までやって来ると、再びひどい不快感が襲ってきた。
自分でも気づいていなかったけれど、あの時のことは相当なトラウマになっているらしい。
広場の光景を見ているだけで吐き気まで襲ってきた。
それでも何とかあの日断頭台が置かれていた場所まで近づいていく。
近づくたびに頭ががんがん痛んだ。
気持ち悪い。足元がおぼつかない。
これは一体何なのだろう。精神的な不快さだけでなく、体中の魔力がふつふつと暴走し始める感覚に襲われる。
近づくのはやめておいたほうがいいのだろうか。
心臓の音がどんどん早くなるのがわかった。まるで体が近づくことを拒否しているみたいだ。
けれど、気になる。あの日何があったのか、この目で確かめたい。
私はまるで何かに操られるように、あの日断頭台のあった場所までふらふらと進んでいった。
やっとのことで記憶の中で私が首を落とされた場所まで辿り着く。現在は断頭台は撤去され、あの日の惨劇の跡はどこにも残っていなかった。
グレースの死体が消えた理由のヒントすら見つかりそうにない。
私はがっかりする思いとほっとする思いを半分ずつ抱えて、その場所に背を向ける。




