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稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています  作者: 水谷繭
10.グレース

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10-1

 シスター見習いの期間が終わり、ヴィンセントのお屋敷に戻って数日が経った。


 ヴィンセントのお屋敷と言っても領地のほうではなく、まだ王都の屋敷に滞在中だ。


 神殿はすぐ行ける距離にあるため、見習い最終日にあれほど神妙にお別れしたにも関わらず、私は頻繁にヘレンたち三人に会いに行っていた。



 今日も私は神殿に遊びに来て、見習い部屋で彼女たちとお茶を飲んでいる。紅茶もお菓子も以前ひっそりお茶会をしたときと違って、ちゃんと新しいものになっていた。


「シャーロット、新しい神官様は私たちに給金をくれるのよ! 300ポルンも!」


「この紅茶とお菓子もお給金で買ったの!」


「自由に使えるお金をもらえるなんて初めてだからどきどきしちゃったわ」


 ヘレンもコーリーもマギーも、目をきらきらさせて嬉しそうに言う。


 新しい神官を指名したとき、三人に適切な待遇を与えるよう圧力をかけておいたのがちゃんと効いているようだ。よかったよかった。




「そうそう、このお菓子ね。前にグレース様が持ってきてくれたのと同じものを買ってみたのよ」


「え」


 突然マギーがそんなことを言うので、思わず手に持っていたクッキーを落としそうになった。


 私はこんなものをあげただろうか。……あげたような気もする。



「グレース様、余り物だなんて言っていつもわざと封の開いた食べ物をくれたのよね」


「でも、中身は全然減ってないから新しく買ってくれたのがすぐわかるの」


「可愛らしい方だったわよね、グレース様」


 三人は懐かしそうにそんな話をしている。


 聞いている私としてはいたたまれなかった。


 確かに、シスター見習いたちにわざわざ新しくお菓子を買って渡すなんて偽善者みたいで恥ずかしかったので、余り物に見せかけるべくあえて封を切ったり、若干中身を崩したりなんて言う小細工をしていた。


 しかしこの子たちにはあっさりバレていたようで、無駄な小細工をした分余計に恥ずかしくなる。


 私が苦い顔できゃっきゃする三人の話を聞いていると、ふいにヘレンが寂しげな顔で言った。


「グレース様、本当にいなくなってしまったのが寂しいわ……。死体がないからお墓参りすることすらできないんですもの」


「え?」


 私は突然の言葉に呆気に取られた。グレースの死体がない?


「死体がないってどういうこと?」


「あ、シャーロットは知らないわよね。実はグレース様が処刑された時、不思議なことが起こったの。グレース様が断頭台で首を落とされた後、役人たちがその死体を運ぼうとしたら、突然黒い煙になって消え去ってしまったんですって」


「な、何それ……」


「不思議よね。私たちは広場に行かなかったから実際の場面は見てないんだけど。本当に一瞬で消えてしまったみたいよ」


 ヘレンの言葉に、コーリーとマギーも神妙な顔で相槌を打っている。


 私は突然予想外の話を聞かされて、動揺しきっていた。死んだ後のことなんて当然記憶になかったけれど、まさかそんなことになっていたなんて。


 一体、なぜグレースの体は消えたのだろう。


 頭を悩ませていたところで別の疑問が頭に浮かぶ。



 そういえば、マイラやテレンスに復讐することに気を取られていてろくに考えていなかったけれど、そもそもどうして私は幼女の姿になったのか。


 ここはグレースの処刑から約一年後の世界だ。生まれ変わりというものがあるにしても、突然六、七歳の少女になるのは説明がつかない。


 私は、一体何なのだろう。


 すっかり混乱して黙りこくっている私を、ヘレンが心配そうにのぞき込んで来た。



「シャーロット、どうしたの? 青い顔して。大丈夫?」


「え、ええ。大丈夫。ただ、なんだか不思議な話だなって……」


「本当よね、死体が消えるなんて不思議だわ」


 ヘレンは真面目な顔でうなずいた。


 その後、三人にグレースが処刑されたときのことを色々と聞いてみたが、死体が黒い煙になって消えたという話以外は何も知らないようだった。


 そもそも現場に居合わせていないのだから、詳しい話を知らないのも当然だ。


 私は自分が死んだ後のことが気になって仕方なくなった。


 その日は落ち着かない気分のままお茶会を終えると、足早にヴィンセントのお屋敷まで戻った。


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