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ヘレンとマギーが真っ青になってテレンスの足にしがみついて止めようとするが、幼い子供二人に引っ張られたくらいでは、テレンスはびくともしなかった。
コーリーは苦しそうにテレンスの手を引き離そうともがいている。
私は急いで服の下から杖を取り出すと、テレンスに向けた。
「離しなさいって言ってるでしょ!!」
杖に念を込め、植物の魔法を発動する。
すると、テレンスの足の下から蔦が凄い勢いで伸びてきて、瞬く間にテレンスの全身に巻き付いた。
「うわぁっ!! なんだこの蔦は!!」
「さっさとコーリーを離しなさい! あんたの首も絞めるわよ!!」
「や、やめろ! これを消せ!!」
私は喚きたてるテレンスに向かって杖を振り、蔦をぎゅうぎゅう締め上げる。蔦はテレンスの首まで伸びていき、容赦なくその喉を締め付けた。
テレンスは苦しげに呻いて、力が抜けたのかコーリーから手を離す。ヘレンとマギーが慌ててコーリーをキャッチした。
首に蔦が巻き付いたままのテレンスは呻き声を上げてこちらに手を伸ばす。
「蔦を消せ……!!」
「神官職を私に譲ってくれる?」
「ぐ……っそれは……」
「嫌なの? なら消してあげないっ」
そう言ってそっぽを向くと、テレンスの悲痛な呻き声が後ろから聞こえてきた。テレンスは切羽詰まった声で言う。
「わ、わかった……! 神官職を譲る! だからこれを消してくれ……!」
「本当に? 約束を破ったりしない?」
「ああ、約束する!」
「解放した後、またコーリーたちを人質に取ったりしないわよね? 次に三人に何かしたら、本当に絞め殺すわよ」
「わ、わかった! お願いだから早く消してくれ……!」
テレンスは目を血走らせて懇願する。よほど苦しいのだろう。私は杖を振って、蔦を緩めてあげた。
解放されたテレンスは、首を押さえてがくんと床にへたりこむ。
私はテレンスの前まで歩いていき、顎を掴んで上を向かせた。
「明日ヴィンセントが来たときに、私に神官の役割を渡すと言いなさい。そうね、シャーロットはとても優秀だからシスター見習いで留めるのはもったいない、ぜひ神官の役目を任せさせたいのだとでも言えばいいわ」
「し、しかしそんなことをすれば上の者が何を言うか……」
「あら、約束を破るの?」
首を傾げて尋ねると、テレンスは血の気の引いた顔でぶんぶん首を横に振る。
「滅相もない! ただ神官を変更する場合には、歴代の神官から意見を聞き、国王陛下からの承認も受けなければ難しい……のですが」
すっかり弱気になったテレンスは、おそるおそるといった様子でそう説明した。そんなことはよくわかっている。私はグレースとして、十年近くも神殿で働いてきたのだ。
「難しくてもやってちょうだい。そうね、一ヶ月時間をあげるわ。その間に手続きを済ませておいて。明日はヴィンセントに私に役割を譲る話だけしてくれればいいから」
「そ、そんな……! 無理です!」
「できないの? それなら別にいいわよ。リストを役人に渡してあなたが処刑されることになれば、もっと簡単に神官職を譲ってもらえるかもしれないしね」
私がそう言うと、テレンスの顔からどんどん血の気が引いていく。
「わ、わかりました……。必ず手続きを済ませます」
「ええ、それでいいのよ」
私は満足してうなずいた。
テレンスの顎から手を離すと、彼はほっとしたように息を吐く。
「神官様、神官の職を退いても神殿自体は辞めてはだめよ。これから先もずっと私とこの子たちの言うことを聞いてちょうだいね」
テレンスは絶望的な表情を浮かべてこちらを見る。私はその顔を見てすっかり気分が良くなってしまった。
私はこいつのせいで処刑までされたのだ。せいぜいこれから先も苦しめばいいわ。




