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もう街には何度も訪れているけれど、相変わらず広い。それに随分栄えている。グレース時代に暮らしていた王都にも劣らないほどだ。
エヴァンズ公爵邸に引き取られてから少しずつ理解していったのだけれど、どうやら私はルーサ王国の北方面に位置するエヴァンズ領の森で倒れていたらしい。
エヴァンズ領は、王都からは大分離れた場所にある広い領地だ。
王都の様子も尋ねてみたが、平穏極まりないそうで、私を殺した愚民どもは今も明るく元気に楽しく暮らしているようだ。……胸糞悪い。
「シャーリー、難しい顔をしてどうしたんだ? シャーリーの欲しがっていたお洋服を買いに行こう」
「はぁい、ヴィンセント様!」
私は慌てて表情を緩めてヴィンセントを見る。危ない危ない。私は無邪気で純粋な幼女なのだ。
ヴィンセントに抱え上げられ、洋服店まで向かう。中に入ると店員たちが頬を緩めて近づいてきた。
「あら、シャーリーちゃん! ヴィンセント様、今日もシャーリーちゃんとお買い物ですか?」
「シャーリーちゃん、またお洋服を買ってもらうの? よかったわねぇ」
店員たちは頬を緩めて、ヴィンセントに抱きかかえられた私に声をかけてくる。
私がかわいこぶって「そうなの!」と笑顔を見せたら、悶え始めてしまった。中身が十九歳の悪女で申し訳ない。
「シャーリー、どのお洋服がいい? 欲しいものは全部買ってあげるからね」
「ありがとう、ヴィンセント様っ」
笑顔でお礼を言ったら、ヴィンセントまで悶え始めてしまった。
それからは着せ替え人形状態だった。店員たちに勧められるまま、さまざまな洋服に着替えていく。
水色と白のエプロンドレスに、チェックのワンピース。それからフリルのたくさんついた桃色のミニドレス。少し違ったお洋服も、なんて言って少年用の服まで着せられた。
着替えても着替えても店員はどんどん新しい服を持ってくる。
「ああ、シャーリー! どれも天使のように似合っているよ。全部購入しよう」
ヴィンセントは私を抱え上げると頬ずりした。
全部はいらないんだけどな……と思いつつ、お礼を言っておく。馬車の中にはたちまち大量のお洋服が積み上げられた。
洋服店を出てからはヴィンセントに抱えられたまま、街をぐるぐる歩いた。ヴィンセントは私が少し視線を向けるだけで「これが欲しいのかい?」と言って、物をたくさん買ってくれる。
馬車の中は今日購入した商品で溢れそうだった。
「シャーリー、ほかに欲しいものはないのかい?」
「うーん、もういいかな……」
「遠慮しなくていいんだよ。お洋服でもおもちゃでも宝石でも、シャーリーの欲しいものは何でも買ってあげよう」
ヴィンセントは得意げにそう言った。
本当にいらないんだけどな、でも無邪気な子供を演出するには何か欲しがった方がいいのか……と頭を悩ませていると、ふと前方に見覚えのある赤茶の髪の女を見つけた。
その顔を見て息を呑む。
黒いシスター服に身を包み街の人たちに囲まれ笑顔を浮かべているその女は、確かに私の知っている人物だった。
「シャーリー?」
ヴィンセントは固まる私を不思議そうに見る。それから私の視線を追いかけるように前方に顔を向け、ああ、と言った。
「シスターが気になるのかい? あの人はマイラさんと言って、神殿で働くシスターだよ。時折街を巡回に来て人々を助けて回っているんだ。普段は王都の神殿で働いているけれど、こんなに遠くまで来ていたんだね。立派なことだ」
ヴィンセントは感心した様子で言う。私は言葉に詰まって、なかなか返事もできなかった。
あの女……マイラのことはよく覚えている。忘れようにも忘れられない。グレース時代、私を慕っていつでもついて回ってきたマイラ。しかし、マイラは私をあっさり裏切り、私のことを神官様に告げ口して処刑まで追い込んだ。
当時の怒りが蘇り、頬が紅潮する。