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稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています  作者: 水谷繭
6.シスター見習い

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6-6

 地下の狭い休憩室で、古びたテーブルの前に座りお茶を飲む。お茶は随分薄く、ほぼお湯のようだった。古い茶葉を使っているのか、匂いもほとんどない。


 お茶菓子も出してくれたけれど、随分固くて味が薄かった。クッキーだと言っていたけれど、軍人が食べる保存食と言ったほうが近い気がする。


 それでも三人は楽しそうだった。あちこち欠けたカップで味の薄い紅茶を飲みながら、頬を上気させて話している。彼女たちにはこんな風にゆっくりお茶をして話すことができる機会なんて、ほとんどないのかもしれない。


「あー、楽しい! シャーロットのおかげで久しぶりにお茶会が出来たわ」


「前にしたのは一年以上前よね。お茶が随分古くなっちゃったわ」


「でも茶葉が残っていてよかったわ。クッキーも取っておいて正解だった」


 三人は楽しげにそう言いながら、私にお茶やクッキーのおかわりを勧めてくる。気持ちはありがたいのだけれど、正直エヴァンズ家の高級食材に慣れてしまった私はこれ以上口に入れる気にはなれなかった。


 私がお湯みたいな紅茶を何とか飲み進めていると、ヘレンがどこか寂しげな顔で呟く。


「シャーロットって、ちょっとグレース様に似てるわね」


「え?」


 突然飛び出してきた名前にぎょっとする。


 グレース? グレースってまさか、私の転生前のグレースのことだろうか。


「グレースって……一年前に犯罪組織と関わって、国民を奴隷として売り飛ばそうとして処刑された悪女のこと?」


「えっ? やだ、シャーロット知ってるの? 違うのよ。悪い意味じゃないの」


 ヘレンは私がグレースを知っていると思わなかったのか、慌て顔になって言う。


「グレース様は悪女なんかじゃなかったわ。そりゃあちょっと裏表が激しいところはあったけれど、私はほかのシスターたちよりずっとグレース様のほうが好きだった」


「私も! グレース様、私たちが仕事を終わらせられなくて困っていたら、よくこっそり助けてくれたのよ」


「私たちの食事量が少ないと知ったら、こっそり食べ物を持ってきてくれたりね。そのくせ、『これは余り物よ。ごみにならないように片付けておきなさい』なんて、命令口調で言うんですもの。おかしかったわ」


 彼女たちは懐かしそうにグレースのことを話している。


 私はと言うと、ひどく動揺して言葉を返すこともできなかった。


 私はそんなことをしたっけ? 別人と間違えているのではないだろうか。全く記憶がない。


 大体、グレースは自分の利益のためなら人を犠牲にすることもいとわない悪女だったはずなのだ。そんな善行するはずがない。


 この子たちのことだって記憶にない……、いや、うっすらと何か思い浮かぶような……。



「シャーロット? どうしたの?」


 私が考え込んでいると、ヘレンが心配そうにのぞき込んで来た。私は作り笑顔で「なんでもない」と返す。


 その後何とか平静を装って会話に戻ったけれど、心は動揺したままだった。


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