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「帰れる家があるなら帰ったほうがいいわよ。ここは全然いいところじゃないもの」
「そうそう。私達はほかに行き場がないからここにいるけど、いつもつらいもの」
女の子たちは悲しげな顔で言う。
「あなたたち、そんな大変な暮らしをしているの?」
「大変よ! 神殿中のお掃除に、大量の制服の洗濯、凄まじい量のお皿洗い、全てここにいる私たち三人とほか数人でやらなきゃならないの。日が昇る前から起きて、真夜中になるまで働いてようやく終えられるのよ」
「少しでも遅れたら神官様はひどく怒るの。鞭で打たれることもあるんだから」
「大人の雑用係たちは大変な仕事はみんな私達に押し付けるから、余計時間がないのよ」
彼女たちは口々に言った。
どうやら彼女たちは名ばかりのシスターで、神殿の雑用を押し付けるためにここへ置かれているらしい。おそらく、彼女たちが身寄りもなく何の後ろ盾もないからこんな扱いなのだろう。
神殿には幼い頃からシスター見習いとしてやってくる良家の少女も多くいるけれど、彼女たちの扱いはそんなにひどくなかったはずだ。
そうか、テレンスは身寄りのない子供にはこんな扱いをしていたのかと、再び驚かされる。
「だからあなたは帰ったほうが……」
「いいえ、いるわ。あなたたちのやっている仕事のやり方教えてくれない?」
私がそう言うと、彼女たちは驚いた顔をする。
「え、本当に残るの? やめたほうがいいと思うけど……」
「そうよ。今のうちに戻ったほうがいいわよ」
「いいの! 早く教えてちょうだい」
私が強引に頼むと、彼女たちは戸惑った顔をしながらも、仕事場に連れて行ってくれた。
最初に案内されたのは、洗濯場だった。部屋の端にいくつも並ぶ籠は、シスター服やら修道服やらでいっぱいだ。一体何枚あるのだろうか。
「すごい量ね。これ、全部あなたたちで洗うの?」
「そうよ。夕方までには終わらせないといけないの」
「急ぎましょう。遅れたらぶたれちゃうわ」
女の子たちはそう言うと、急いで準備にとりかかった。三つ編みの女の子が、私にやり方を教えてくれる。
「この桶を使って洗うの。これが石鹸。水が汚れてきたらあっちの蛇口で汲んできてね」
「ええ、わかった」
言われた通り、桶に入れて制服を洗う。水が冷たい。石鹸でごしごし洗うけれど、あまり汚れが落ちた気がしない。
二、三枚も洗うと、もう腕が疲れてきた。幼女の小さな手で大人の服を洗うのはなかなか骨が折れる。
顔を上げると、女の子たちはもくもくと制服を洗い続けていた。
「うー、疲れたわ。水が冷たくて手が痛いし」
「まだ始まったばかりよ。がんばって。ほら、次の服」
三つ編みは容赦なく次に洗う服を渡してくる。私は渋々受け取った。服を手渡されたときに見た三つ編みの手は、乾燥してあちこちひび割れていた。
早くも最初の数枚で洗濯が嫌になっていたけれど、私には神殿に入り込んでテレンスの弱みを見つけ、地獄に落とすという目的がある。ここで投げ出すわけにはいかない。




