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「神官様!」
「うわっ。なんだ、君は」
神官テレンスは、怪訝な顔でこちらを見る。私はその表情から、彼が私がグレースだと知っているのか読み取ろうとした。
もしもマイラが神殿に戻ってきているのなら、彼は私の正体を聞いているはずだ。
「お嬢さん、ここは神聖な場所だから走ってはいけないよ」
テレンスは怪訝な顔を引っ込め、笑みを作って言う。確証は持てないけど、私の正体を知っている反応には見えなかった。
私はテレンスの服を引っ張りながら言う。
「神官様! 私シスターさんになりたいの! 神殿で働かせてくれないかしら」
「は?」
テレンスの笑みが崩れた。眉をひそめて私を見下ろす。
「お願い! 見習いでいいから!」
「何を言ってるんだ、君は」
テレンスは呆れ顔で言うと、野良犬でも追い払うかのように服にしがみついていた私を引きはがそうとする。
「こら、シャーリー! 神官様に迷惑をかけてはだめだろう」
すると後ろからヴィンセントが駆けてきて、私を抱き上げた。ヴィンセントはテレンスにぺこぺこ謝っている。
不愉快そうにこちらを睨んでいたテレンスの顔が、途端に焦り顔に変わった。
「エヴァンズ公爵……!? いらしていたのですか? あの、こちらの子は……」
「私の妹というか、娘みたいなものです」
「そ、そうだったのですか。エヴァンズ家のご親類か何かで? とても可愛らしいお嬢さんですね」
テレンスはさっきまでの態度とは打って変わり、媚びるような笑みを浮かべて私とヴィンセントを見ている。神官のくせにあさましい奴だ。
「でしょう!? 私も常々シャーリーはなぜこんなに愛らしんだろうと不思議に思っているんです!」
テレンスの言葉にヴィンセントは目を輝かせる。そして私に頬ずりして、「褒めてもらえてよかったな、シャーリー」と言った。
「この子はシャーリーちゃんと言うのですね」
「はい。本名はシャーロットですが、普段はシャーリーと呼んでいます」
「それはそれは。可愛らしい名前ですね」
テレンスはやはり媚びるような笑顔で言う。ちなみにシャーロットは本名でも何でもなくヴィンセントがつけたニックネームに過ぎないが、特に口を挟まないでおいた。
「ありがとうございます。それとシャーリーがおかしなことを頼んでしまってすみません。しばらく神殿を回ったら帰りますから」
ヴィンセントはそう言って私を抱えたまま引き返そうとする。私は急いで言った。
「待ってください、ヴィンセント様! 私シスターになりたいの!」
「いきなり何を言うんだ、シャーリー。ここへ来るときはそんなこと一言も言っていなかっただろ? 神官様を困らせてはいけないよ」
「でも、なりたいのぉ!」
私が腕の中でばたばた暴れると、ヴィンセントは困り顔になった。
あとでおもちゃを買ってあげるからとか、神殿が気に入ったのならまたいつでも来られるからなんて言ってなだめようとしてくるけれど、私は暴れ続ける。




