5-3
処刑場で見た光景は、一度死んだくらいで忘れられるようなものではなかった。
広場を埋め尽くす国民たちは、皆私に蔑みの目を向け、罵声を浴びせてくる。
投げつけられる石が体にあたって痛い。灰色の長い髪を短く切られ、粗末な服を着せられ裸足で歩かされている自分の状況が何とも惨めだった。
私が断頭台の上で首を落とされる瞬間、響いたのは盛大な歓声だった。
過去を思い出しながら、私はぎゅっと唇を噛む。
……ああ、本当にムカつく! テレンスもマイラも、国民どもも全部!
犯罪行為が発覚したのだから態度が変わるのは当然だろうとかいう正論は聞きたくない!!
「テレンスは今も神官として崇められているのかしら……。許せないわ……」
喉元から恨みがましい声が漏れる。テレンスが今もぬくぬくと幸せに暮らしているのだとしたら許せない。
だって、あいつだって私に負けず劣らず悪事に手を染めていたのだ。私とテレンスの違いと言えば、罪がバレたかバレなかったのかだけだ。
私は静かに決意した。
絶対にテレンスを地獄に落としてやると。
***
一晩ベッドでぐっすり眠ると、体の疲れも昨日広場で感じた嫌悪感もすっかり消えていた。
ダイニングルームに行くと、笑顔のヴィンセントが駆け寄ってくる。
「おはよう、シャーリー! よく眠れたかい?」
「はい、ヴィンセント様! ベッドがふかふかで気持ちよかったです。もうすっかり元気になりました!」
「それはよかった! じゃあ、今日もどこかにお出かけしようか」
「はいっ。シャーリーは、今日は神殿に行きたいです!」
私は元気よく言った。しかし、ヴィンセントは浮かない顔をする。
「……神殿か。そうだね、シャーリーが行きたいなら行こうか」
「……? ヴィンセント様、お嫌ですか? 元気のない顔をしています」
「そんなことはないよ。朝ごはんを食べ終わったら支度をして行こうね」
ヴィンセントは私の頭を撫でながら言う。しかし、表情に明らかに元気がなかった。
エヴァンズ領にある街の神殿に行くときはこんな風ではなかったとのにと、不思議な気持ちになる。疑問が解けないまま、私はヴィンセントに連れられ神殿へ向かった。
神殿も街と同様、あの頃とは全く変わっていなかった。
相変わらず人が多く、礼拝に来た人たちと、彼らに対応するシスターたちで賑やかだ。シスターたちの中には見知った顔をいくつも見かけた。
「シャーリー、まずは礼拝堂に行こうか」
「はいっ」
礼拝堂まで歩く間、マイラはここに来たのかどうか考えていた。神官様に泣きついてここに置いてもらっただろうか。
私の正体がグレースだと知って相当焦っていた様子だから、私と関わらないために神殿には来ていないことも考えられる。
そんなことを考えていると、ふと廊下の前方を、よく見慣れた黒髪の男性が歩いているのを見つけた。
「ヴィンセント様、礼拝堂に行く前に少し用が出来ました! 行ってきます!」
「え? あっ、ちょっと、シャーリー!」
私は引き止めようとするヴィンセントに構わず一目散に走り出す。そして黒髪の男性……テレンスの服の裾を引っ張った。




