5-1
マイラに会って別れの挨拶をしてから一ヶ月。
ヴィンセントがしばらく王都に滞在できるよう予定をつけてくれた。現在、私はエヴァンズ家が王都に持つお屋敷に到着し、部屋中を跳ね回っている。
「ヴィンセント様! このお屋敷とっても素敵ですね!」
「ははっ、気に入ってくれたかい? シャーリー」
私がはしゃいだ声で言うと、ヴィンセントは得意げな顔で笑った。
さすがエヴァンズ公爵邸のお屋敷だけあって、ずいぶんいいお屋敷だった。
王都にあるため広さはそこまででもないけれど、窓からは街の風景を一望できるし、家具はどれも最高品質だしで、子供らしい演技をするまでもなく興奮してしまう。
「シャーリー、荷物を置いたらさっそく外に出てみよう」
「はぁい! すぐに置いてきます!」
私は元気に返事をして部屋に荷物を置き、ポシェットだけ下げてヴィンセントの元に向かった。
王都は相変わらず賑やかだった。
私が処刑された一年前と特に変わった様子はない。懐かしい思いで通りを歩く。
「シャーリー、何が欲しい? この前くれたクマの財布のお礼にたくさん買ってあげるからね」
ヴィンセントはそう言って私に微笑みかけた。お礼でなくても普段からとんでもない量のプレゼントを買ってくれている気がするけれど、とりあえず「嬉しいです!」と喜んでおいた。
ヴィンセントと手をつないで、通りをぐるぐる回る。グレース時代より目線が低くなっているせいか、街が前よりも大きく見えるのが不思議な気分だ。
そんな風にのん気に街を回っているとき、ふと、目の前に忘れようにも忘れられない光景が飛び込んで来た。
たくさんの建物の立ち並ぶ街の真ん中に開いた広い空間。濃い灰色の石畳。
あの日のように禍々しい断頭台は用意されていないけれど、そこは間違いなく私が処刑された場所だった。
「シャーリー? どうしたんだ、具合でも悪いのか? 真っ青だぞ」
「え……っ」
ヴィンセントに心配そうに言われ、はっと顔を上げる。気づかれるほど動揺が顔に出てしまっていたのだろうか。
過去に処刑された現場を見たくらいでは動じないと思っていたのに、なんて情けない。
動揺を押し隠すため慌てて笑顔を作る。すると、ふいに体を持ち上げられた。
「長旅の後に街を歩いたから疲れたんだな。今日はそろそろ帰ろうか」
「ヴィンセント様……」
ヴィンセントは優しい声で言うと、私を抱っこしたまま広場に背を向ける。広場が見えなくなり、少しだけほっとした。
その時、通りを歩いていた数人の若い男性たちの話し声が耳に飛び込んできた。
「ここ、あれだよな。グレース・シュルマンが処刑された場所」
「うわ、呪われそう」
「シスターのくせに犯罪組織と組んでたんだろ? 最低だよな。殺されて当然だ」
彼らは軽蔑した顔でグレースを最低な女だとか、死んでよかっただとか悪口を言う。
なんなんだ、あいつら。腹立つな。また気分が悪くなってきた。




