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「こら、シャーリー! 一体どこに行ってたんだ? お屋敷のどこにもいないから心配したじゃないか!」
「ごめんなさい、ヴィンセント様。街に行ってたんです」
「それなら私か使用人に伝えてからにしなさい。一人で出かけて攫われたり事故にあったりしたら大変じゃないか。ただでさえシャーリーはこんなに可愛くて、いつ誰が狙ってくるかわからないのに……」
お屋敷に戻ると、玄関に入るなり息を切らしたヴィンセントと出くわした。
どうやらヴィンセントは、私の姿が見えないのでお屋敷中を探し回っていたらしい。動きやすい服に着替えているあたり、これから外まで探しに行くところだったのかもしれない。
ヴィンセントに気づかれないうちに帰ってくるつもりだったけれど、失敗だった。
「心配かけてごめんなさい……。実は、ヴィンセント様にプレゼントを渡したくて、街のお店を回ってたんです」
「プレゼント?」
「はい。いつものお礼にこれを」
私はそう言いながら、くまの顔の形をした小銭入れを差し出した。ヴィンセントは目を丸くする。
「これを私に?」
「はい。こっそり用意してヴィンセント様を驚かせたかったんですけど、そのせいで心配かけちゃいましたね」
「シャーリー……!」
ヴィンセントは感極まった様子で私を抱き上げた。
「シャーリー、プレゼントなんてしてくれなくても君がいるだけで私は毎日最高に幸せなのに!」
「嬉しくなかったですか?」
「とんでもない! すごく嬉しいよ。大事に使わせてもらうね」
ヴィンセントはそう言うと、ぎゅうっと私を抱きしめた。
よかったよかった。抜け出したのがバレていたときのために、一応子供の渡すプレゼントっぽいものを買っておいて正解だった。
予想通り、突然のシャーリーからのプレゼントでヴィンセントはすっかり機嫌をよくしている。
ちょうどいいから今お願いしてみようか。
「ねぇ、ヴィンセント様」
「なんだい? シャーリー」
「シャーリーは今度王都に行ってみたいです。王都でヴィンセント様とたくさんお買い物したいなぁ」
「もちろんいいよ! 一緒に王都に行こう」
ヴィンセントはすぐさま了承してくれた。
私はきゃっきゃと笑いながらヴィンセントの胸に顔を摺り寄せる。ヴィンセントの喉からぐっと押し殺すような声が漏れて、腕の力が強まるのがわかった。また悶えているらしい。
王都に行ったら何をしよう。
まずは神官様に顔を見せに行こうか。まずは末端の者に近づいて、じわじわ追い詰めるのもいいかもしれない。
私の処刑に関わった奴は全員苦しめてやりたいわ。
「どうした、シャーリー。そんなに声を上げて笑って。それほど王都に行きたかったのか?」
「はい! ずっと王都に行きたいと思ってたんです! 楽しみ過ぎてにやけちゃいます」
「そうかそうか。それなら早く予定を空けて旅行に行く時間を作らないとな」
私の言葉に、ヴィンセントはたちまち笑顔になる。
私は神官様たちの恐怖で歪む顔を見るのが楽しみで楽しみで、緩む口元を押さえるのに必死だった。
ああ、待ちきれない。これからどうしてやろうかしら。




